約 188,374 件
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/278.html
「ジェネシスちゃん、大丈夫っ!?」 「な……なんとかっ。振り落とされないようにするだけで精一杯ですが」 音速を突破し、周囲には音もなく戦場を駆け抜ける二人。 二人が通り過ぎた空間には、直後凄まじいソニックブームが巻き起こり、周囲に配置されていた不運な敵機が吹き飛ばされていく。 それは時間にすればほんの一瞬なのだけれど、激しいGに耐える二人には一瞬とも永遠とも思える時間の流れ。 そして正面に、巨大な電波塔のような建造物が見えてくる。 周囲に敵は今のところ見当たらない、どうやら主力の大半は3~4エリア周辺に配置していたみたいだ。 「あれです! あそこから突入しますので」 「……了解っ。加速解除!……きゃぁっ!?」 ジェネシスを投下するため加速を緩めた途端、塔の根元より複数の強烈な閃光がねここに襲い掛かる。 急速回避して直撃は避けたけど……明らかに今までとは違う精度だ。 「今のは……あいつなのっ!」 「あれは……ネオボードバイザー・ガンシンガー!」 塔の根元に佇む巨大な人影。 それはジェネシスが使用するリボルケインの原型機、ソードダンサーの姉妹機であるガンシンガー。 そして、その巨大なアーマードモジュールの装着者となっていたのが…… 「エスト!?」 ねここの飼い方・劇場版 ~十一章~ 塔より全周波に渡って通信が流されてくる。 その声はそれなりに若い男の声だ。だが声質は歪み、他者を憎しみ蔑む様な雰囲気を滲み出させている。 『どうかね、正義の味方気取りの愚かな武装神姫ども。 その正義気取りにお答えして最高の舞台を用意して差し上げたよ。 友人を打ち倒して世界を守る、か。それとも倒され朽ち果て、我等の手先になるか。お前たちの運命はそれだけだ。』 塔の前に佇むエスト。……いや、今はガンシンガーと言うべきだろう。 彼女の全身はブリガンディモードになったガンシンガーと一体化していた。 「エストちゃん、どうしちゃったの!?」 思わず叫ぶねここ、だが彼女は一切の反応を示さない。その目に輝きは鳴く、ただ命令に従うだけの殺人マシーンのような虚ろな目。 『彼女は思った以上に頑強だったがね、我等の技術力を持ってすれば不可能ではなかったよ。フフフ……無益な抵抗だったな。 ……そして、今は我等の忠実な番犬だ。精々楽しく遊ぶ事だな』 「そんなっ!?」 『嗚呼、忘れる所だった。彼女ごと破壊しても一向に構わんが、その場合全データが修復不能、ついでに本体側も自壊するようしておいた、まぁ精々頑張りたまえ』 男が言い終わると同時にエクセルビームライフル“ロンゴミニアド”を構え、連続して狙撃をしてくるエスト。 『ねここ急速回避!』 「やってるけど、でもっ!」 再び再加速を掛け火線から逃れる。しかしその射撃は正確かつ高出力で、直撃こそないけれど各部装甲がチリチリと悲鳴を上げ始めている。 それに、しがみ付いているだけのジェネシスへの負担が大きい。 『ねここはエストちゃんの相手を! ジェネシスはこのまま突入してください、急いで!』 「しかし、ねここだけではっ!」 「行って! ……何時までも背中に乗られてると……足手まといなのっ!」 ねここはそう断言。でもその目からはポロポロと涙が溢れ流れて…… 「わかりました……マスター、リボルケインを!」 『おぅ! やっちまえジェネシスっ』 シューティングスターよりダイブ、自由落下していくジェネシス。 やがて、彼方から飛来した戦闘機にタイミングをあわせ絶妙に着地。 「モードブリガンディ!」 ジェネシスが鋭く叫ぶ。同時にリボルケインが展開、ジェネシスを包み込むようにして装着。 白銀の帝王、爆誕! 『続いて行くぞ!』 「了解です……ツゥゥゥゥゥル!!コネクトォォォォォォ!!!」 リボルケインに続き彼方から飛来したマイナスドライバーを、天高く掲げた右腕に装備! 「ディバイディング!!ドライバァァァ!!!」 そのまま勢いを殺すことなく、いやそれどころか推力を全開にして塔の基部に特攻をかけるジェネシス。 「…若い…」 だがその突入位置を容易に予測したエストがチャージングチューブを接続したロンゴミニアドを構え、最大出力でジェネシスを撃ち砕かんと待ち構えていた。 特攻してくるジェネシスを悠々と待ち受け、その破壊の槍で粉砕せんとするエスト。 『ねここ!』 「そんなこと、させないのっ!」 ジェネシスを撃ち抜かんとするため、ねここへの砲撃は止まっていた。砲撃が停止した瞬間ねここは艦首を翻し、主砲のローエングリンを放つ。 目標はロンゴミニアド。だけど旋回中に発射したビームは目標を外れ、エストの足元へ着弾。 「死ね」 「おりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」 フル出力の一撃は直撃コースを外れ、虚しいエネルギーの浪費と終わる。地面を抉ったビームはエストの足場を切り崩し、それが運良く照準を狂わせたのだ。その隙にジェネシスは電脳空間を切り裂き、中心部へとダイブを敢行する。 『ち、追えエスト……Gを八つ裂きにしてしまえ』 「は……」 まだ開いたままのゲートへ突入せんとするエスト。だが、その寸前、側面からの一撃にエストは大きく吹き飛ばされる。 ねここが加速をかけて体当たりをかけたのだ。シューティングスターの推力に物を云わせた強引で強烈な突進。 そのままゲートの前に立ちはだかり、ファイティングポーズを取る。 やがて吹き飛ばされたエストもゆっくりと立ち上がる。重装甲で全身を覆ったエストにダメージは感じられない。 出力と装甲が違いすぎる。だけど…… 「絶対に……ここは通さないんだからっ!」 『どうだジェネシス、中核反応はあったか?』 「はい……キャッチしました。あと50」 一方ジェネシスは制御プログラムの階層まで潜り込んでいた。 やがて彼女の前に姿を現す、空中に浮かぶ巨大な金属球。神姫よりもそのサイズは遥かに大きい。 「……あれですね、一気に行きます!」 ジェネシスが全身に内装された砲門を展開する。Gのキャノンが、両腕のビームユニットが、腰のヴェスバーが。 そして周囲には残存していたドラグーンが。全砲門が目標である金属球へと照準を合わせられる。 その時、金属球に赤いラインが浮かびあがる。それは金属球に目の様な模様を書き上げ、同時に内部より何本かの細長い円柱状のフレキシブルアームがせり出してくる。 「な!?」 ジェネシスがその変化にひるんだ瞬間、アームの先端より放たれる多数のリングレーザー。 ブリガンディモードでは小回りに欠けるため、大きく回避半径を取らざるを得ない。攻撃態勢を解除してスラスターで回避行動を取る。 更に追撃のつもりか、目に相当する部分から極太の拡散レーザーを発射。 ジェネシスはリボルケインを巡航形態にチェンジさせて一旦後退、間合いを取る。 『……ありゃタングラムか。自衛プログラムとして、HOSの暴走起動用プログラムに融合させてやがる』 「逆に言えば、アレにワクチンを撃ち込めばこの事態を収拾出来るわけですね」 『そうなるな……よし、全力でぶちかましてやれ!』 「はいっ! モードブリガンディ!」 全推進系を全開にし、超高速で突撃。咆哮と共に再び鎧を纏い、悪を断つ剣と共にタングラムへと突き抜けてゆく。 それを迎撃するように、タングラムの目からは極太の収束レーザーが射出される。だがそれをエクスカリバーで歪め切り裂きながら突撃するジェネシス、そして。 「必殺!リボルクラッシュ!」 雷光一閃! 彼女の鮮やかな一撃は、巨大なタングラムを完全に真っ二つに分断させた。そのままデータの藻屑となって崩壊していくかに見えたタングラム。 だが… 「そんな、復活した!?」 ジェネシスの叫びが木霊する。一瞬崩壊していくかに見えたタングラムは損傷部分を修復、直ぐに元の状態へと復元を果たしてしまった。 「アイツは無敵なんですかマスター!?」 『ちょっと待て、今のでデータが取れた。……何処からか修復プログラムが流入して復元されたらしいな。流入元はこの近辺じゃない……ルート検索。……いた。補修プログラムを持ってるのは…ガンシンガー!』 『……という訳で、アイツを倒さないとワクチンが投与出来ないみたい。ねここ……お願いっ』 『しかも厄介な事に同時にだ、片方だけ破壊しても互いに補完しあうらしくってな。ジェネシスの方は準備万端……あとは其方次第だ』 「な……なんとかやってみるのっ!」 そうは答えてくれるものの、戦況は悪い。 元々ネオボードバイザーと武装神姫では出力と装甲に雲泥の差がある。 出力に物を云わせ総計5門のビーム砲を連射、尚且つエストの高い処理能力によってその射線は正確無比。 ねここもイリュージョンシステムで撹乱を行うものの、砲撃ではエスト諸共吹き飛ばしかねないので迂闊に攻撃が出来ない。 『何か手段があるはず……何か』 ガンシンガーのデータを手元のコンソールに呼び出し、機体特性を調べ上げる。 変形システムを搭載してる機体は大抵の場合各種機構が複雑になり、脆い部分が存在しやすくなる。その辺りに突破口がないだろうか。 だがこの機体は全身に渡ってフレームが走ってる上に、素体と合体することにより負荷の分散を図ってる。 太腿部分は露出してる。しかしエストに一部でも傷を付けた場合どんな悪影響が出るかわからないので、迂闊に脚部を切断するわけにも…… アーマーの配置状況はどうだろう。脚部、腕部…胸部、これなら…いけるかもっ。 『ねここ、今から送る戦術を試してっ!』 「あいあいさー☆」 ねここにも私の気持ちが伝わったのか、急に陽気な声になる。 シューティングスターを背負ったまま、軽やかに幻惑のダンスを踊る。背中に重量級の物体を背負っているとは思えない身軽さ。 ガンシンガーの周囲に出現し続ける無数のねここ。それに対して全身の火器で片っ端から撃ち落してゆくガンシンガー。 だけど全て素通り、ホログラフが虚しく拡散するだけ。何故ならねここは…… 「こっちだよっ!」 遥か上空、相手の真上から急降下を掛ける! 同時に両舷のローエングリン砲口部からビーム刃を展開。それはライフルの全長に匹敵し、サーベルというより長大な騎兵槍とでも言うべきシロモノ。 中世の騎兵のように、いや其れとは桁違いのスピードを以って空間を駆け抜ける流星。 『馬鹿め、一撃で撃ち落してやれエスト!……どうした、おぃ! 早くしろ!』 それは偶然、いや彼女の意思の力による必然か。ほんの僅かに、だけど確実に動きの鈍るガンシンガー。 「……せ……ぃ、さ…せませんっ!」 うっすらと瞳に生気の戻ったエスト。だけど彼女は覚悟を決めた様に瞳を閉じ 「私……もろとも……」 閃光となって迫ってくるねここ対し遺言のように呟く。 「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」 ずぶりという音がしそうな程、易々とガンシンガーの左右胸部上面に深く突き刺さるビームランサー。 それはガンシンガーの装甲部分のみを貫く様に…… 唯一の支えが外れ、剥がれ落ちる胸部装甲。同時に装甲の支えを失ったエストの身体もグラリと崩れ落ち始め……そこを両腕でキャッチ、そのままガンシンガー本体より引き抜いて一気に離脱するねここ。 ガンシンガーの胸部装甲はポンチョのように上から被せる方式、だから上面装甲を切り離せばそのまま引き抜けると思ったのだ。それは大成功。 そして急旋回し、抜け殻だけになったガンシンガーへ再び槍先を向ける。 『ねここ、フィニッシュ!』 「了解なのっ、ねここブースタァー!!!」 最大加速して正面から突っ込む! ガンシンガーからは無数のビームが放たれるものの、先ほどまでの正確無比な射撃とは無縁の素人以下の乱射程度だ。 激突寸前、自らを切り離し急速離脱するねここ。 先程までねここがいた場所には、背部に装着されていた旋牙が前方配置され唸りを上げて回転している! 「ゴー!!!」 『なんだとぉぉぉぉぉぉ!?だからドリルは取れと言ったのだぁぁぁ!!!』 ガンシンガーの各部に深く食い込み、抉り、そして突き抜けるシューティングスター。さしもの重装甲も全推力を背に受けた旋牙とビームランサーの破壊力には無力だった。 そして突き抜けたシューティングスターが旋回、そのまま天頂から最早残骸となったガンシンガーへと最後の突撃を掛ける。 修復される可能性がある限り完璧に破壊しなければいけない。 「……ごめんねっ!」 同時刻 ウイング内に仕込まれたGのキャノン、両腕のビームユニット、腰のヴェスバー。そして周囲のドラグーン。 全砲門を、既に戦闘力を無力化させ瀕死のタングラムへと向け、射撃体勢を取っていたGが咆哮する! 「この力……今こそ解放の時!」 二つの場所で同時に発生する閃光、それはこの戦いの終焉の鐘を鳴らすかのよう…… ~終局~ 「ホストコンピュータ、完全に乗っ取られました! 制御…不能!」 「電源落ちません! 主動力室ごと止めないと無理ですっ」 制御室にオペレーターたちの報告、いや悲鳴が響き渡る。無益と知りつつも全力で対処しようとする人々。 やがて、ドサリと背後で何かが崩れる音がする。 「そんな……馬鹿な……」 つい先程まで絶対の自信を漲らせ指揮を執り続けていた、彼らのリーダー格の男。 ソレが椅子に崩れ落ちたのだ。 「脱出しましょう教授! 乗っ取りによってこちらの場所が判明したとしても確保した足止め用の神姫どもがいます。ヤツらを盾にすれば十分時間は稼げます。今のうちに……」 傍らにいた若い男がそう助言する、だが…… 「残念でしたね、皆々様♪」 後背のドアが突然無礼に開き、逆光と共に一人の少女が現れる。 「な…貴様何処から!? いやそれ以前に警備は何をしている!?」 責任を擦り付けたいのだろうか、誰に向かってかも判らない怒号で叫ぶ男。 「何処って……此処のドアからに決まってますでしょう。それと、暴走神姫たちも残さず返して頂きましたよ」 挑発的な瞳で切り返す少女。 「そんな筈はあるか! 何百いたと思ってるんだ!? おい、やっちまぇ!」 傍らで立ち尽していた警備用のアムドライバーに命令、いや嗾ける。 彼らには対人攻撃防止プログラムはない、少女を有機物の塊にせんと一斉に飛び掛ってゆく。 「ふん、遅いね」 次の瞬間、間接部を綺麗に切り裂かれボトボトと床に落下していくアムドライバーたち。 少女の前に、天使と見紛うばかりの-翼-シルエットを持った武装神姫が浮遊していた。 「ありがとマルコ。助かるわ」 「何言ってるんです、わざわざ挑発なんかして。万が一だってあるですからね」 まるでピクニックにでも行くような調子で会話をする二人。 その隙に反対側のドアから脱出しようと、何人かの男が慌てふためきながらも駆け出す。 「全員動くな!」 発砲音の後、反対側のドアが倒れる。誰かがドアの接合部分をショットガンのような物で破壊したのだ。無論その誰かはすぐ判明する。 倒れたドアの向こうには今しがた拘束命令を飛ばしたアーンヴァル型の神姫と、数十体に及ぶヴァッフェバニー型が銃器を構えて殺到していた。 驚き倒れた男の一人が、混乱しつつも懐から拳銃を取り出し神姫を撃ち抜こうとする。 だがそれは無益だった。銃を突きつけた時点で銃身がドロドロに誘拐してしまったのだ。 それはアーンヴァルが放ったレーザーライフルの一撃。彼女らもまた対人用として殺傷力のある武装を装備していたのだ。 「それ以上抵抗すると……痛い目みますよ?」 敗北を悟る男たち。全員が力なくその場へと項垂れた。 「あれ……私何やってるんだっけ」 「ボクなんでこんな格好してるんだろ?」 ワクチンの効果は直ぐに現れ始めていた。 それまで暴走し、獲物を求め彷徨っていた神姫は次々に正気に戻っていく。 満身創痍の十兵衛とリン。 それを延々と包囲し続けていたホイホイ軍団も、乗っ取り成功により消滅。 二人の目の前でキラキラとポリゴン粒子に変換され消えてゆく。 「……勝利……か…」 「みたいです…ね。つ…つかれましたぁ」 へにょりと背中合わせでその場にへたり込む二人。でもその表情は達成感に満ち溢れていて。 「終わったみたいですね、よかった……二人は無事でしょうか」 気の抜けた表情で溜息混じりに呟く雪乃。 「大丈夫ですよ。貴方が信じてあげなくてどうするんです」 今度は自分の番だな、と雪乃を励ましにかかるココ。 「そうですね……」 「おーぃ、ユキにゃ~ん♪ ココちゃ~ぁん☆」 彼方から聞こえるねここの声。 二人が声の方を見合わせる。そこには夕日をバックにジェネシスのリボルケインに乗り彼女たちの下へやってくる、ねここ、ジェニー、エストの姿が。 「ねここーっ♪」 思わず手を振りながら飛び出してゆく雪乃。 「ユキにゃんっ☆」 嬉しさのあまり、リボルケインから思わず飛び降りダイブ! 「わ…っ、よ・・・っと。……ふぅ、危ないですよねここ」 「ユキにゃん、ナイスキャッチなの☆」 「……おかえりなさい、ねここ」 「うんっ、ただいまっ♪」 そこには何時もの、見る者全てを幸せな気持ちにさせてくれる、満面の笑みを溢すねここがいたのでした。 Fin~ 続く
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2796.html
連続神姫ラジオ 浸食機械 ~機械仕掛けのプリンセス~ はじかき はい、浸食機械全24話、終了いたしました。最後までおつきあいくださった皆様、お時間を割いてちょっとでも読んでくださった方々、誠にありがとうございます。当方が勢いとのりで始めた長文、かなり癖のある文体だったと思いますがいかがだったでしょうか?ご意見ご感想お待ちしております。 当初は新聞の小説コーナーを目指して、短く・読みやすく・短期間で続編をだすことを目標にしていたのですが、まあものの見事に間が開いてしまいまして、結局一年越しの完結となりました。それでも三千人近くの方が足を運んでくださっていることを考えると武装神姫というコンテンツの強さを実感します。こんなに足はこんでもらったのはじめてだよ。 作者としてはいろんなキャラクターの神姫への愛を描いてその中で主人公がどんな未来を選ぶのかというのがテーマにあったりします。その辺はうまく伝わってくれたでしょうか。俺設定、独自解釈などありましたが大丈夫だったでしょうか。終わった今は、それだけを考えています。 さて、ここからはおまけコーナーとなります。はしょったところとか元ネタとかここを見てとかそう言ったところをつらつらと書き込んでいくつもりです。もし興味がおありでしたらここからのカーテンコールにもおつきあいください。それでは、皆様の神姫ライフが実りあるものであることを心から願っております。 完 戻る 疑似ライドシステムとか 要は他のロボットとかにもライドできて神姫と一緒に戦えたら楽しいなと思って作った設定です。機能としては乙女回路と女帝回路の違いと思っていただくのが一番わかりやすいかと。このシステムがロボット産業含め各地に普及していることで今回の事件が起こります。説明書を読まずに直感でイメージ通りに動かせるシステムとか便利だと思いませんか? 最後の樹のイメージ 劇中でも言ってますがまんまバベルの塔です、不思議の海のナディアの最初の方に出てきた方の。 プルミエと勝 今回の主人公。やっぱり主人公は素直で最初は弱くてニュートラルじゃなきゃねということで抜擢。 ルートと浩太 携帯コミックからの参戦。ちょい役でもいいのでいろんな所からキャラをだしたかったのです。ルートさんは本当にかわいいのですがもうダウンロードもできませんから広めることもできないのが・・・何のかんの言ってマスター思いのいい子なんですよ。 ハーデスとガイア ヒロイン候補。隠しテーマは神姫のための強いマスター。バトマスから参戦。ガイアは原作をやる限り戦うのが好きなだけのキャラのイメージだったのでこんな感じに。あとは普段ハーデスさんを溺愛してる感じがしたので結構ラブラブに。 ツガルとステベロス バトマスから参戦、完全にちょい役。 ヘンゼルとグレーテル 隠しテーマは愛をいいわけにしている人。とはいってもヘンゼルのことは大切に思っているはずなのですが。昔彼女のひどいことをしてしまったのでその後悔から抜け出せずに立ち止まってしまってる人。バトマスから参戦、今回のメインヒロイン。ゲームを見たときから一目惚れで、是非彼女のその後とか成長がかけたらなと思っていたのでヒロインに抜擢。彼女を幸せにしてあげたいと思っているマスターは多いのではないでしょうか。でもエンディングは某大往生のショーティアという。 rootと西園寺 悪役をだすならこの人しかいないと言うことで抜擢。性格は二転三転して結局野心を捨てていないキャラに。rootはGP03の中の人みたいなもの扱いなので普通の神姫として登場。擬人化のイメージ元はどこかにあげられていた擬人化絵から拝借。ちなみの元々この話はゲームとして作りたいなと思っていたので当初はrootエンドとかも考えていました。 清四郎と楓 オリジナルキャラにしてヒロイン候補。OVAを見ていて小学生が神姫に興味を持つなら近所のお兄さんに影響されてとかの方が面白いかなと思い清四郎は生まれました。性格はラジオロンドの頃のあすみすそのままです。あーしとか特に。とにもかくにも男前のキャラ。そしてどんな結末でも結局は結ばれず年上のおねいさんへの初恋という形で終わるキャラ。 楓はデビルサバイバーというゲームの柚子という子が骨組みになっています。ヒロイン候補で彼女の手を取って脱出という選択肢もありますが、その場合神姫を捨てて普通の人間エンドになります。コレはどうなのでしょうか。人間であることとシナリオのせいでものすごく割に合わない子になってしまいました。ちなみに隠しテーマは神姫に負ける人間。没にしましたが「愛し愛されるためだけに生まれたあんた達なんかに私たちの苦しみがわかるもんか」という台詞を言わせたかった。 コウガ 今回の元凶。わかりやすいラスボス。人間に復讐したい、でもしたくない、だから誰か止めて。今回の事件で大いに穴があったのはこの辺の心境が原因です。 戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/867.html
登場人物 神姫サイド 名前:ジュリ(ジュリエット) タイプ:侍型 種別:ガラ悪い 備考: 慎之介に拾われた神姫1号。真っ赤なタテガミの様な髪が特徴。 マスターである慎之介とタメを貼るほど口が悪い。 態度もそれなりにでかいが、感受性が強く意外に繊細。 一切の武器管制能力がないため、バトルには出られない。 数年前はファーストランクにいた。 名前:ノゾミ/カナエ/タマエ タイプ:猫型 種別:にゃーにゃーにゃー 備考: 慎之介に拾われた神姫2号/3号/4号。 悪質な改造により言語中枢に障害があるため「にゃー」としか言えない。 よって、コミュニケーションは筆談中心(当人達は会話できる)。 頭の回転がよく、機転も利くがその分肉体面はトロい。 しかもあくまで3人セットでないと全力が出せないので、バトルは苦手。 不良の原因調査のため、とある研究所に行って以来食事をとるようになる。 名前:パトリシア タイプ:天使型 種別:マイペース 備考: 慎之介に拾われた神姫5号。 初期不良により、飛行中の空間認識能力が欠如しているため、上下左右の区別がつかず、まともに飛ぶことができない。 地上においても恐ろしく方向音痴。 当人はあまり気にしている節はない。 上記理由により、接敵前に時間切れになることが多く、バトルは苦手。 名前:アイリーン タイプ:砲台型 種別:チャキチャキ 備考: 慎之介に拾われた神姫6号。 元は違法の闇バトルにおいて、通常の規格外の腕力設定を為されたが、余りに度外視された設定だった(人を殴って殺せるレベル)ため廃棄処分されかけた所を逃げ出して慎之介に拾われた。 ---とは本人の談。どこまで事実かは不明。 事の真偽はともかく、実際規格外の腕力のため公式バトルには出られない。
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/547.html
第2幕「はるか遠くの始まり」 神姫には三つの心がある。そしてその心とは別に頭脳がある。心と頭脳を繋ぐのは、それらに情報を与える肉体である。 神姫にとってボディー、コアパーツ、そして三つのCSCは不可分であり、その三種のユニットが分断される事は機能停止を伴う。 そして一度停止に至った神姫は記憶、経験等が全てリセットされ、再びその個性を取り戻す事は無い。 たとえ全て同じパーツを使用したとしても。 ――心を司るCSC。 過去に記録を宿していながらも真っ白になったその心を、新たな肉体に埋め込まれた神姫は一体何を思うのだろうか。 結城セツナの新たな武装神姫、焔はそういう境遇にいる神姫である。 焔がセツナの元で目を覚ましてから約3週間が過ぎた。 例の事件の際にセツナを救ったとある少女からの連絡を受け、晴れてセツナは自由を再び満喫できるようになっていた。 久しぶりに登校した学校では定期考査が間近に迫っていたが、しかしそれでもセツナにとってそれはハンデにはならないらしい。 県内でもランクの高い私立の女子高においても、常に十位以内をキープする才女なのだから、今更試験のための勉強などしなくても日ごろの行いでこなせてしまう能力があるのだ。 そして現在、学校は試験休みに突入している。 その休みを利用し、焔とセツナはバトルを繰り返していた。 それこそ休む間を惜しんで。 原因は焔が言った我侭だった。 「この休みと冬期休暇の内に、私をセカンドまで押し上げて欲しいのです」 「何いきなり無茶な事を…… 焔、あなたはまだ起動したばかりでろくに経験も積んでいないのよ? そんな神姫が、特別な何かが無い限りセカンドランカーになれるわけ無いじゃない」 セツナは呆れたようにそれに答える。 確かに焔の発言はどう考えても無理があり、いくらオーナーに能力があろうとも経験のまるで無い神姫が短期間でそれを叶えるのは無茶な話だ。 それに対し焔は次のような提案をする。 「私に、海神の戦闘データを移植してください」 「ちょ……ちょっと待って。あなたは海神とは違うのよ。いくらあの娘の戦闘データを移植しても、あなたが効率よく戦えるわけじゃないわ」 確かに焔には海神と同じCSCが同じ配列で収められている。 しかしコアパーツとボディーが別物なのだから、その性質は海神とはまるで違う。 「そんなあなたが海神のデータを移植した所で、そのデータは邪魔になるだけかもしれないのよ? それに私は……」 「そんなことは承知です。でも……それでもワタシはそのデータが欲しいのです」 提案は何時しか懇願に代わっていた。 「ご主人、お願いします。ワタシはどうしてもそのデータを使い、セカンドランカーになりたいのです!」 焔にとって、それはどうしてもやらなくてはならない事だったからだ。 セカンドランカーになる、と言うのはあくまで言い訳に過ぎなかった。そう言えば、海神のデータを移植する十分な理由になると思ったのだ。 ならばなぜそこまで海神のデータに拘るのだろう。 「……ねぇ、なぜそんなにセカンドにこだわるの? そして何でそんなにあの娘のデータを欲しがるの?」 「――――」 焔はなにも言わない。 言いはしないが、その擬似的に創造された心で、思うことが確かにあった。 海神ⅡY.E.N.Nと言う名を冠するならば、ランクは兎も角戦闘データだけは海神のものを引き継ぎたい。 それは多分己が主人に対する意地と、そして後ろめたさから来るものだろう。 自分は海神という神姫の代替品だと言う思いが、心の最奥にひっそりと、だが確実に存在している。 ご主人が私のその役目を求めているなら、私はそれ以上の存在になろう。という意地もある。 なんにしても、まずは海神が居た位置に並ばなくてはならない。 そしてただ並ぶだけではなく、海神を内包し、更にそれを越えて己を表さなくては意味が無い。 ワタシが存在する、意味が無い。 チクリと胸が痛んだ。 「ふぅー…… 仕方、無いわね」 セツナは嘆息しうなだれながら小さく答えた。 そうしてセツナは、焔にどんな思惑があるのか聞けないままに、それでもその願いを叶えるべく行動を始める。 こんなやり方は、きっと正しくは無いのだろう。 自分が何を思っているかも告げず、ただ我を通すだけのやり方も。 それを突き通すために誰かの経験を横取りするようなやり方も。 それでも―― それでも海神ⅡY.E.N.Nという名でありながら、焔という名の一つの神姫であるために…… 「焔、次もいける?」 「大丈夫ですご主人。ワタシが望んだ事なんですから」 焔のその言葉に、セツナの表情がかすかに曇る。が、焔はその変化に気付けない。 セツナはすぐに表情を変える。 「それじゃ、頑張って、ね」 そのセツナの笑顔を見て、胸の奥にわずかな痛みを感じながら―― 「はい!」 焔は精一杯の笑顔で答えた。 スタートラインすら、まだはるかに遠くとも。 トップ / 戻る / 続く
https://w.atwiki.jp/busosodo/pages/112.html
武装神姫達のソード・ワールド2.0【第2-2話】 http //www.nicovideo.jp/watch/sm19081331 クーガのステータス 魔物データ/クーガ なお、本来なら『骨組みだけの試作品で、稼働していることは稀』という設定。 なのだが、メカニックな雑魚敵として手頃なデータではある。 グルガーンのステータス 魔物データ/グルガーン
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/445.html
前へ 先頭ページへ 人、人間、ヒューマン。 今現在、地球の食物連鎖の頂点に君臨する種族たるそれは、地球に存在するあらゆる獣に劣る。 犬に噛まれて、最悪死ぬ。 道に落ちているものを食べて、最悪死ぬ。 熱かったり寒かったりで、最悪死ぬ。 身体能力、免疫能力、適応能力etcで動物以下の能力しかもたないそれらが、唯一獣に勝る物、それは頭脳。 人は思考する。 人間は想像する。 ヒューマンは予想する。 犬に噛まれない為に、その習性を理解して手なずける。 道に落ちているものが安全かどうか、知識を持つ。 熱かったら身体を冷却し、寒ければ防寒具を身につける。 本能の命じるままに動く野性を抑え。 頭を働かせる理性を伸ばす。 それが人の人たる由縁であり、最大の武器でもある。 しかし、それはあまりに複雑だ。 人は理性と共に高度な自我を持った。 それは一つとして同じ物は無く、それを完璧に予測するのは困難を極める。 どんなに技術が進歩しても、それを意のままに操る事は出来ない。 それを心の底から痛感している人間―――恵太郎が、ここにいる。 狭いアパートの4分の1を占めるベッドの上に力なく寝そべりながら、その日何度目か解らない疑問を口にする 「何でこうなるんだろうなぁ」 悩む事は無駄ではない。 試行錯誤の果てに正解を見つける、この試行錯誤こそが重要ではないだろうか。 その過程で人の自我は成長していくのではないだろうか。 もっとも、正解を既に見つけているにも関わらず苦悩するということを現実逃避とも言うのだが。 恵太郎の心を掴んで離さない人物、それは他ならぬアリカだ。 だからといって、それは恋のような甘酸っぱいものではなく、どちらかといえば苦いものだ。 アリカは先日のリアルバトルからというもの、恵太郎を師匠と仰ぎ付き纏うようになったのだ。 その原因の8割程は恵太郎自身にあると言えるだろう。 だが、これだけでは恵太郎が苦悩する理由にはならない。 恵太郎が苦悩する理由、それはアリカがかつての自分と被って見えてしまうからだ。 アリカが本当に鬱陶しいのなら、冷たく突き放すという選択肢もある。 しかし、恵太郎にはそれは出来ない。 何故なら、アリカと恵太郎は全く同じ境遇にいるからだ。 もしもアリカを冷たく突き放す、という事を恵太郎がやられた場合。 恵太郎は立ち直れない自信があった。 だから、恵太郎の執る選択肢はアリカを極力避けるという無気力なものだった。 しかし、運命の悪戯というものは、かくも皮肉なものなのだろうか。 恵太郎や佐伯姉弟が通う大学、その門を潜り抜けながら恵太郎は深く溜息をついた。 「何でこうなるんだろうなぁ」 そして、その日何度目か解らない疑問を口にした。 もっとも今までと違う点を挙げるとすれば、その疑問の中心人物がすぐ脇にいる事だが。 「弟子たるもの、何時如何なる時でも師匠に付き添うのがキホンってものです!」 恵太郎の脇でご機嫌な様子で元気に喋るのはアリカだ。 その肩の上ではアリカの武装神姫たるトロンベが困惑半分、興味半分といった様子で静かに座っている。 恵太郎はそれを尻目に、その身に降りかかった不幸を嘆いている。 一体何処の誰がアパートの前でアリカを鉢合わせる事になると想像できようか。 「それにしても、大きな大学ですねー」 そんな事とは露知らず、アリカは周囲を見回しながら感嘆している。 確かに、その大学は大規模な工場を備えているのでその分大きい。 だが、そこまで驚く物ではないのではないかと、恵太郎は内心呟いた。 「あんまりキョロキョロするなよ」 恵太郎は周囲を探るように言った。 どちらかといえば、周囲の視線を測るようにだ。 その理由は単純明快。 アリカが人の目を集めているからだ。 ここは大学であって、遊園地ではない。 アリカのような少女がいる場所ではないのだ。 人数まばらな日曜とはいえ、アリカはそれなりに奇異の視線を集めている。 それが恵太郎の頭痛の種となっているのだ。 恵太郎は、それを振り払おうとするように歩く速度を上げた。 「っと、師匠待ってくださいよ~」 それはアリカにしては速すぎたようで、早足で恵太郎を追いかけた。 空は雲ひとつ無い快晴である。 だが、恵太郎はそれに気付くほどの余裕をまだ持ち合わせていなかった。 重厚な扉の上に掲げられたプレートには『多目的研究室』と書かれていた。 その下には張り紙で『第13班』とも書かれていた。 「師匠、今日は大学で何をするんですか? 今日日曜ですよね?」 「それは全員そろってから説明する」 アリカは小首を傾げつつ、恵太郎に問いかけたが一瞥されただけで満足の行く回答は帰って来なかった。 それに不満を感じたのかアリカは少し膨れているが、恵太郎はそれに触れる事無く扉を開け中に入っていった。 恵太郎の後に続き、部屋に入るアリカ。 その部屋は白い壁に3方を囲まれ、1方はガラス張りの壁だった。 壁際には様々な器材が所狭しと置かれており、部屋の中央にあるテーブルの上では資料と思しきものが山を作っている。 「アリカ、お前を紹介するからちょっと来い」 アリカはそれらを物珍しそうに見てたが、恵太郎の声にそれを中断した。 「コイツがあのアリカです……ほれ、挨拶」 「あ、あの、はじめまして。アタシは水野アリカって言います」 アリカは恵太郎に促されて挨拶したが、緊張しているのか、その身体は強張っていた。 「初めまして、トロンベと申します」 それと対照的にトロンベは落ち着いて挨拶した。 だが、良く見ると身体が小刻みに震えている。 「この人が佐伯 裕也先輩」 恵太郎は裕也を指して短く紹介した。 「おう、よろしくな、譲ちゃん達!」 それに気を悪くする事無く、豪快に挨拶をする裕也。 「にゃーは蒼蓮華なのだー、よろしくなのだー!」 その肩の上で元気一杯に挨拶する蒼蓮華。 「この人が佐伯 裕子先輩。裕也先輩の双子の姉に当たる」 「よろしくね、アリカちゃん、トロンベちゃん」 春の日差しを思わせるのほほんとした口調で裕子は挨拶を交わした。 「初めまして、私はアル・ヴェル。今後ともよろしく」 ポニーテールにしたアーンヴァル型のアル・ヴェルが挨拶をする。 「そういや、茜は来てるんですか?」 一通り紹介が住んだのを見計らって恵太郎は口を開いた。 「ああ、奥の部屋で武装のメンテをしてるぞ」 裕也は指でガラス張りの壁を指差しながら応えた。 「それと、孝也も来てるぞ」 最後に一言付け加えたが、その言葉に恵太郎は顔を顰めた。 「アイツも来てるんですか…」 「我が主をアイツ呼ばわりとは、恵太郎殿はまことに我が主に厳しいで御座るな」 何時の間にやら恵太郎の肩の上で腕を組んでいた忍者型の神姫が口を開く。 「確かに多少問題はあれど、あれはあれなりに良いところがありまするぞ」 「ああ、解ったから降りてくれ、トリス」 トリスと呼ばれた神姫は、恵太郎の言葉を聞き入れ、テーブルの上へと移動した。 「アリカ殿、トロンベ殿。お初にお目にかかる。拙者、忍者型神姫のトリスと申す。以後お見知りおきを」 そして、アリカとトロンベに向かい丁寧に挨拶した。 アリカはそれに軽く返礼すると恵太郎へ向かい問い掛けた。 「師匠、茜って?」 「ちょっとした事で知り合った女の子なんだけど、凄い技術を持っていたからスカウトしたの。それと、コーヒーしか無いけど良いかしら?」 アリカの質問に裕子が代わりに応えた。 それと同時にインスタントのコーヒーを差し出した。 「あ、ありがとうございます」 アリカはコーヒーを受け取り、ガラス張りの壁に視線を送る。 その奥の部屋はこの部屋と違い黒い壁、というよりコンクリートむき出しの部屋で、機械的な装置が多数設置されており、床には大小無数のコードが這っており、天井にはダクトやケーブルが縦横無尽に奔っている。 そこでは白衣を着た二人の人間がなにやら作業をしているのが見受けられた。 それと同時に、アリカは言いようの無い不思議な感覚に襲われた。 「……まさか、ね」 アリカはそれを振り払うように首を振った。 「ご主人様、どうかしましたか?」 主の変化を機敏に察知したトロンベがアリカに声をかけた。 「ううん、何でもないの。ありがとう、心配してくれて」 それに人差し指で頭を撫でながら事によって応えるアリカ。 トロンベは心地良さそうに目を閉じるだけだ。 「茜ちゃん、孝也君、皆揃ったわ」 テーブルの上に置かれたマイクに喋りかけるアリカ。 それはスピーカーを通じて奥の部屋へと呼びかけられた。 「解りました~、今行きます」 確かに少女の、ただ若干機械的な響きを伴った声が恵太郎達の部屋に響いた。 少し遅れてガラスの壁が天井へと向かいスライドした。 それが完全に天井の中へと収納されるのを確認した人物が恵太郎達の元に走りよりつつ口を開いた。 「けーくん、会えて嬉し…アダッ!」 恵太郎は走り寄ってきた人物に容赦のない蹴りを叩き込んだ。 「寄るな、鬱陶しい」 腹部を蹴られたその人物は地面をのた打ち回っている。 「…師匠、誰ですかコイツ」 アリカはそれをやや離れた位置から見下している。 「ああ、君がけーくんの弟子のアリカちゃんだね! ボクは高野 孝也、けーくんの親友だよ」 「誰が親友だ、誰が」 いつのまにか立ち直った孝也は、恵太郎から冷たい視線を浴びせられた。 「なーんかオタク臭いわね…」 「あはは、手厳しいね」 アリカは孝也の白衣に眼鏡という出で立ちを見て、正直な感想を漏らした。 しかし、それに対して孝也は困ったように笑うだけだ。 その様子を傍観していた恵太郎だが、ふと思い出したように口を開いた。 「…アリカの事、お前に話してたか?」 言いながら佐伯姉弟の方も一瞥した。 「それなら、私が話しときました」 今まで黙っていた、もう一人の白衣の少女が口を開いた。 眼鏡に白衣と、孝也と同じ服装だが、こちらは様になっていてどっからどう見ても研究者だ。 「アリカの事なら私が一番知っていると思いましたから」 にこやかに言い放つ少女。 それをワナワナとしながら見ていたアリカは口を開いた 「何でアンタがココにいるのよ!?」 その叫び声は、四つ隣の研究室まで聞こえたという。 世界は広いようで狭い。 芸能人が近場に住んでいたり、学校の友人が実は親戚だったり。 幼馴染と10年ぶりに再会したり、街中で親とすれ違ったり。 人と人との縁というのは、本当に摩訶不思議な物だと思う。 それでも、こんな縁は御免だ。 アタシの目の前では茜が師匠達と和やかに談笑している。 それは永年連れ添った中間達、といった様子でアタシのような新参者が入り込むことすらおこがましく感じる。 「マスター、そろそろ今回の目的を話されては?」 今まで他の神姫とテーブルの上で談笑していた師匠の神姫、ナルちゃんが口を開いた。 「ああ、そうだったな。……実は先輩達に頼みたい事がありましてね」 師匠は周囲をぐるりと見回しながら言った。 その中に、アタシが少しでも入っていれば良いのに。 「なんだ、恵太郎が頼みとは珍しいな」 「ボクに出来る事だったら何でもやるよ、けーくん」 裕也先輩と高野が快く快諾している。 声には出していないけれども、裕子先輩や茜の表情からは悪い感情は感じられない。 「単刀直入に言うと、ナルの装備が壊れました。よって、その修復を手伝って貰いたい訳です」 「ああ、アリカが壊したアレですね」 茜がアタシの方を見ながら言った。 今気付いたが、ここでの茜はちゃんと人の目を見て話している。 それに学校で話すときと随分感じが違う。 この感じは、茜の家に遊びに言った時と同じだと思う。 つまり、ここにいる人たちにそれほど心を許していると言う事なのだろうか。 「私達で良ければ幾らでも力になるわ」 「ありがとうございます、先輩」 どうやら話が纏まったようだ。 師匠が懐からだしたメモリーカードを差し出して、色々と話し込んでいるのが聞こえる。 その中にはアタシが聞いた事の無い単語が飛び交うので、師匠たちが大学生なのだと実感する。 そして、それに茜が混ざっているのに違和感は感じられない。 アタシはそれに加わる事無く、ただ傍観に徹するのみ。 残り少なくなったコーヒーを口に含みつつ、視線を泳がす。 「そうだけーくん、アリカちゃんに大学紹介してあげたら?」 その言葉に身体が反応する。 「そうですよ先輩、ここは私達に任せてどうぞごゆっくり」 「いやマスターの俺がいないと色々問題が…」 「気にすんな恵太郎! ちゃんと改造しといてやるから!」 「何ですか改造って。俺はただナルの装備を修復しにきただけですから…」 「恵太郎君、年上の言う事は聞くものよ?」 師匠は思いっきり抵抗していたが、裕子先輩に言われると黙ってしまった。 ……これはチャンス? 「解りました。後は任せますけど、おかしな事はしないで下さいね?」 師匠は念を押すように、低い声で言う。 それと同時にアタシの方を見てから、指で扉を指した。 外に行くという合図だろう。 アタシはコーヒーをテーブルの上に置いて師匠に歩み寄った。 「そうだ、アリカ。トロンベちゃんもメンテしとくわ」 途中で茜に呼び止められたので、渋々トロンベを手渡した。 その間際、トロンベがどうする~アイ○ル~的な視線を送ってきたので、頭を優しく撫でてあげた。 「大丈夫、直ぐに戻ってくるから、ね?」 「…はい! ご主人様」 元気に応えるトロンベを確認して、師匠の元へと向かう。 師匠は既に廊下に出ており、扉の隙間から雲ひとつ無い快晴が見えた。 「さて、これで邪魔者はいなくなりましたね」 恵太郎とアリカが出て行ったのを見計らい、茜が口を開いた。 かけた眼鏡のレンズが反射して、その眼を窺い知る事は出来ない。 「じゃあ、とっとと作業始めようか!」 裕也がやたら元気に音頭を取る。 「…ただ直すだけというのも芸が無いでござる」 その時、孝也の頭上から声がした。 トリスは腕を組み、足を揃えて静かに続ける。 「ナル殿の刃鋼と銃鋼は確かに高性能でござる。しかし、あの御寮人にはもう物足り無いのでは御座らんか?」 「そうえば恵太郎君、ナルちゃんの装備をあれにしてからもう一年経つのね」 「そうだな、そろそろ強化の頃合かもな、姉貴」 トリスの言葉に佐伯姉弟も同意しているようだ。 それを確認し、満足そうに頷くトリス。 「そうであろう、そうであろう。今のナル殿に必要なのは機動力と火力の両立、そして隙の無い間合いだと拙者は思う」 「けど、けーくんのいない間に勝手に弄っちゃまずいんじゃ…」 乗り気ではない孝也に対し、茜はノリノリだ。 「…そういえば新型の荷電粒子砲を開発したって、四班の人たちが言ってましたねぇ。それに六班は燃料電池の小型化に成功したとも聞きましたよ。」 顎にひとさし指を添え、上方を見ながら喋る茜。 その言葉に反応したのは佐伯姉弟だった。 「なるほど、じゃあ俺は四班の連中と交渉してくるか」 「じゃあ私は七班の人たちに頼んでくるわね」 そういい残すと、颯爽と部屋から出て行った。 後に残されたのは茜と孝也だけだ。 孝也は未だに乗り気でないらしく、困った顔をしている。 「主殿、首尾良く強化できれば恵太郎殿もお喜びになられますぞ」 その肩に飛び降りたトリスは軽く耳打ちをした。 「でも、ナルちゃんの意思は…」 「私はむしろウエルカムです」 だいぶ心が揺れてきたのか、孝也の視線が泳いできた。 そして、最後の希望として話しかけたナルにも快い快諾を貰ってしまった。 「それでは制御用プログラムを作りましょうか。先輩、私だけではキツイので援護お願いします」 もはや言い逃れる術は無かった。 「ただいま戻りました」 広大な敷地面積を誇る大学をアリカに案内していた恵太郎が研究室へと帰ってきた。 その顔には明らかな狼狽の色が現れている。 「ただいま戻りました~!」 そんな恵太郎とは対照的に、元気一杯に研究室へと飛び込んだアリカ。 その顔には満面の笑みが浮かんでいる。 「よう、遅かったな恵太郎」 奥の部屋から裕也の言葉だけが響く。 「ここの敷地面積知っているでしょう…」 それに力なく椅子に腰掛けながら応える恵太郎。 その言葉からは肉体的な疲労と言うより、精神的な疲労の方が多く見える。 「どうだった、アリカちゃん?」 「はい、凄い楽しかったですっ!」 裕子の問いに満面の笑みで応えるアリカ。 その表情からは翳りは一切無く、その言葉が本意であることを物語っている。 「で、けーくん。何処を案内したんだい?」 孝也は壁際に備えられたパソコンに向かいながら問い掛けた。 「ひとまず一班から十二班まで順番に。その後MMS博物館を回って資料室と工場見学。最後にバーチャルマシーンセンタの順に。」 「成る程、それは疲れるね」 机に突っ伏しながら応えた恵太郎に軽い労いの言葉を掛ける孝也。 「神姫好きにはたまらないコースですね、先輩。どうぞ」 「ん、ありがとう」 恵太郎にインスタントコーヒーを手渡す茜。 「はい、アリカも。あとトロンベちゃんのメンテだけど、当然ながら問題は無かったわ」 「悪いわね」 アリカはコーヒーとトロンベを受け取ると、恵太郎の隣に座った。 「ご主人様、外はどうでしたか?」 「そりゃ凄かったわよ~。初期に作られたというMMSのアーキタイプとかあって……」 アリカはトロンベに今見てきたことを話して聞かせている。 茜はそれを一瞥すると奥の部屋へと歩いていった。 暫しの間、研究室にコーヒーの香りとキーボードを叩く音、そしてアリカとトロンベの談笑が支配した。 「ところで、ナルの修復は?」 一息ついたところで、恵太郎は誰にでもなく話しかけた。 「後は孝也君が制御プログラムの最終調整をしている所よ」 「……制御プログラム? 何か問題でもあったのですか?」 恵太郎の問いに裕子が応える。 その問いが若干予想外であった為、恵太郎は二度目の疑問を口にした。 「まあ、出来上がってからのお楽しみね」 しかし、その問いに満足の行く回答が反される事は無かった。 恵太郎はそれ以上追及する事無く、孝也へと視線を移した。 孝也は忙しなくキーボードを叩きディスプレイを睨んでいる。 裕也と茜は奥の部屋で作業をしている。 裕子は資料の整理をしている。 恵太郎とアリカは並んでコーヒーを飲んでいる。 名状しがたい、しかし、悪くは無い空気が研究室に満ちていた。 「ところで、四班と七班の連中から嫌な視線を感じたんですが、知りませんか?」 「それも出来上がってからのお楽しみね」 恵太郎はそれ以上追従出来なかった。 「ふう」 その空気の中、孝也が静かに溜息をついた。 研究室にいる全員の意識が孝也に集中する。 「制御プログラム、何とか出来たよ。かなり突貫だから荒が有るのは許してもらいたいけどね」 そして、パソコンからメモリーカードを抜き取ってそれを茜に手渡した。 「ご苦労様です、先輩。では、こちらへどうぞ」 茜に促されるままに恵太郎達は奥の部屋へと向かう。 地面を這うケーブル類をうっかり踏まないように、全員が注意して歩く。 目指すは部屋の隅に陣取る天井まで届く円柱状の装置。 その脇に置かれたコンソールを叩き、スロットにメモリーカードを挿入する。 「それでは恵太郎殿、生まれ変わったナル殿をご覧あれ」 コンソールの上に、何処からとも無く表れたトリスが恵太郎に恭しく頭を垂れる。 それとほぼ同時に、円柱状の装置の真ん中から上下にスライドした。 その中からは大量のスモークが溢れ出し、油圧式アクチュエーターによりナルが固定された台座ごと押し出された。 徐々に薄くなっていくスモークと共に、ナルの全貌が明らかになる。 それを見て、恵太郎は絶句した。 「何…この……何?」 それも無理は無い。 何故なら、今のナルの姿は以前とは比べ物にならない姿になっていたのだ。 まず頭部には目を惹く大きな、紅い角が生えた。 そして脚部はストラーフ型の基本パーツを装着。 が、その右腕はその身の丈と同等のサイズの砲身と化している。 次に左腕自体も大型化し、持つ刃鋼は規則正しい割れ目が入った不思議なモノになっている。 最後に最も異形の部分、背中である。 腰部には元からあった補助ブースターを改造したと思しき巨大なブースターが。 そして、背中部分には腕、と言うより触手が生えている。 「ただ装備を修復するだけではつまらないと思ったので、色々と強化してみました」 茜はその様子を楽しむように解説を始めた。 「まず、右腕の銃鋼は四班が新たに開発した荷電粒子砲を搭載しました。従来のトライリニアアクセラレータ型ではなく、シンクロトン型へと変更しました。これによって装置自体は巨大化しましたが、その分耐久性能は抜群に上昇、更に、同型の荷電粒子砲を一対に組み合わせ、交互に発射する事で威力は従来のままに連射性能を底上げしたので以前のようなチャージの必要はありません。次に左腕の刃鋼ですが、これは裕也先輩のアイデアを基に設計しました。俗に言う蛇腹剣というものなのですが、最大射程は10smと中距離戦闘では抜群の戦力を誇ります。 また、ある程度の操作が可能なので熟練すればまさに手足のように扱えるかと思います。今回強化した銃鋼と刃鋼ですが、その威力と引き換えに機動性を大きく削ぐ結果となってしまいました。簡単に言えば、重すぎたんです。それを補う為に背部ブースターの巨大化と全身各部に補助スラスターの設置で、一応は機動性を確保しました。ですが、重量が極端に増加してしまい、立つことすら侭なら無い状態になってしまった訳です。その為に、身体を支える為に三つ目の腕。鉤鋼を追加したところ、身体のバランスを取ることが可能になったばかりか、かなりトリッキーな動作も可能になりました。また、鉤鋼自体を使った攻撃も可能でそれなりに使い易いかと。最後に一つ留意点なのですが、銃鋼・刃鋼・鉤鋼のそれぞれの武装を使用中は、他の武装を併用できない事を覚えておいて下さい。具体的には、銃鋼を使用する為には左腕を使った照準補助と鉤鋼を使った姿勢補助が必要なんです。銃鋼は連射性能を飛躍的に強化したんですが、その反動自体は以前より悪化しているんです。次に、刃鋼の場合ですが、これも鉤鋼の姿勢補助が必要です。銃鋼は反動等の理由で併用はほぼ不可能です。最後に鉤鋼ですが、これは鉤鋼を使用している間は姿勢制御が出来ないのが理由です。それと、頭部ホーンは高性能センサー群です。以前と同じドップラーセンサーと超音波センサーを搭載しています……何か質問はありますか?」 心なしか嬉々としている様に見える茜とは違い、恵太郎は呆然としている。 「マスター、似合いますか?」 当のナルはというと、頬を若干紅く染めて恵太郎に問い掛けている。 その表情だけ見れば可愛らしいものだが、その全貌と合わせてみると悪魔の囁きにしか見えない。 「……ああ、最高に似合っているよ」 ようやく我に返った恵太郎が、ナルを褒める。 その表情に嘘偽りの影は無く、其方かといえば清々しい表情だ。 「茜、バッテリーはどうなってる? 前のままだとガス欠で動けないだろう」 「はい、第七班の新型燃料電池のお陰でバトルには一切支障はありません。銃鋼自体も外部イオン供給型なので、打ち放題です」 「パーフェクトだ、茜……孝也、鉤鋼の制御プログラムの内訳は?」 「通常歩行、走行、跳躍、武装使用時の四種類だけだよ」 「ナルは元々腕が四つある、多少の負荷は許容範囲だ。そこら辺を考慮して、自由度を上げて置いてくれ」 「分かったよ、けーくん」 「裕也先輩、刃鋼の耐久性は?」 「刀身部分は秒速5km/sの弾丸にも耐えられた。連結部分は集束モノフィラメントワイヤーで防護してはいるが、秒速2km/sレベルが限界だ」 「ありがとうございます、充分ですよ」 そのやり取りは研究者というより、悪の秘密結社という方が似合っていた。 「全く、先輩達には何時も驚かせられますよ。こりゃ馬鹿と冗談が総動員だ」 もう吹っ切れたのか、全員を見回しながら言った。 「師匠、凄いじゃないですか! これで向かうところ敵無しですねっ!」 アリカはまるで自分の事のようにはしゃいでいる。 「そうでもないさ」 「へ?」 アリカと対照的な恵太郎は、視線をアリカから裕子へ移した。 「裕子先輩、ナルの作動テストとして手合わせ願います」 その言葉にはある種緊迫したものが混じっていた。 「ええ、良いわよ」 裕子の表情は何時ものように小春日和の陽射しのようだ。 「…アリカ、良く見て置けよ」 「も、勿論ですよっ!」 恵太郎は険しい表情でアリカに言った。 バトルフィールド『宇宙船』 剥き出しの金属フレームに金網の足場。 余計な装飾は一切無く、あるのは金属の冷たい感覚。 戦う為に生み出された武装神姫の戦場に相応しい……ナルは新たな武装を纏いそんな事を考えていた。 今回の相手はアル・ヴェル。 もう両者共にフィールドへの転送は終わっている。 普通のバトルなら、こんな悠長に構えている暇は無い。 だが、これはナルの新武装の作動テストだ。 あくまで、名目上はだが。 恐らく恵太郎は本気だ。 ナルはそう考えていた。 「お待たせしました、ナル」 頭上から声が掛けられた。 「いえ、お気になさらず」 その声の元へ視線を送る。 そこには空中を踏み締めてナルを見下ろす雪の様な白い髪の神姫―――アル・ヴェルが居た。 アーンヴァル型の彼女だが、その装備はアーンヴァルとは異なるシルエットを醸し出している。 胸部アーマーはナルのモノと酷似している。 腰部のブーストアーマーもナルのモノと酷似している。 唯一違うのは、脚部。 脚には足首部分から三対の巨大な鋼の羽が生えている。 武装名は『羽鋼』 「裕子先輩の神姫、ナルちゃんに似てる…?」 茜はディスプレイに映る両者を見て、思わず声を漏らした。 赤と黒のボディ、白いボディ。 機体色の違いこそ有れど、それほどまでに両者は似通っていた。 「そりゃそうさ。恵太郎はアル・ヴェルの武装を模倣してナルの装備を作ったんだからな」 裕也はさも当然と言わんばかりだ。 「そんな事より」 そこに茜が割り込んだ。 「アリカは運が良いわ。だって裕子先輩のバトルしている所が見れるのだから」 「どう言う事?」 アリカは茜の真意を測りかねている。 「裕子先輩はこの大学最強の神姫マスターなんだよ」 それに端的に答える孝也。 しかし、その目線はディスプレイに釘付けだ。 気付けば蒼蓮華やロン、トリスですらディスプレイを凝視していた。 『ナル、初めは銃鋼だ』 恵太郎の声がバーチャル空間に響く。 『アル・ヴェルは攻撃に当たらないように避けてね』 それに続き、裕子の声が響く。 ナルとアル・ヴェルは無言で頷きある程度距離を取る。 「…師匠と手合わせするのは久しぶりですね」 ナルは全身の駆動チェックを行いながら呟いた。 その呟きには哀愁に満ちていた。 「マスターはバトルを好みませんからね」 アル・ヴェルの声は、ナル程では無い物の哀愁に似た響きが混じっていた。 「今日は、師匠を満足させられると良いのですが」 ナルは刃鋼で銃鋼を支えながら持ち上げた。 背部では鉤鋼に備え付けられた巨大な鉤爪が足元の金網を抉っている。 「ふふ、そんな気張らなくても良いわ」 アル・ヴェルは羽鋼を展開させた。 その翼長は悠に3smはある。 『よし…ナル、用意が出来たら好きなタイミングで発射してくれ』 ナルの用意が整ったのを確認した恵太郎から通信が入る。 「了解です、マスター」 それに短く応えるナル。 「…行きます、師匠」 「来なさい、ナル」 その言葉に、哀愁は無かった。 構えた銃鋼から爆音と共に光弾が放たれた。 上下に二つある銃口から交互に、凄まじい勢いで光弾と爆音を排出する。 しかし、光弾を撃ち出す事にナルの身体は凄まじい反動を受けていた。 『ナル、大丈夫か?』 恵太郎からの通信。 その声音には若干緊張の色が含まれている。 「…はい…ッ……問題、ありません」 銃鋼を撃ち続けながら、擦れた声で返答するナル。 『……もう暫く撃ち続けてくれ』 暫しの沈黙の後、恵太郎から続行の指令が下る。 「…了解」 それに簡潔に応えるナル。 その眼はアル・ヴェルだけを見据えている。 銃鋼から放たれる光弾はまさに雨の様だった。 しかし、それは反動によるブレで命中精度は良いとは言えないものだ。 その証拠に、アル・ヴェルは軽く身体を捻ったりするだけで大きな回避運動を取っていない。 が、背後の壁に命中した光弾は悉く被弾箇所を貫いている。 『ナル、銃鋼のテストは終了だ。お疲れ様』 恵太郎の通信と同時に銃鋼を停止させる。 「ありがとうございます、マスター」 支えていた刃鋼と銃鋼を下ろして応えるナル。 『…何か問題点は?』 「今のところありません」 『そうか、次は刃鋼だ。準備が出来次第好きに始めてくれ』 「了解です」 事務処理のような応答を繰り返す二人。 ナルは無表情で刃鋼を前方に突き出す様に構えた。 そして、ガチャリという音と共に刀身に規則正しく入った割れ目を境に分裂した。 紅と黒の刀身は何節にもわかれ、刀身同士を繋ぐのは複合ワイヤーのみ。 その間接部分ごとに自在に折れ曲がるそれは、最早剣では無い 床に分離した刀身が落ち、甲高い音を鳴らす。 それを確認したナルは左腕を高く掲げると、刀身の四分の一程が吊り下げられる。 ナルは左腕を振り下ろし、続けざまに右に跳ね上げ、そこから左に鋭く振った。 それと呼応して刃鋼が激しく波打つ。 そして、鋭く、速く、迸った。 刃鋼はまるで大蛇の様に蠢きながら、アル・ヴェルへと襲い掛かった。 伸縮自在の間接を持つそれは、瞬間的には10sm程にもなる。 そして、その先端部分は遠心力やらなにやらで相乗的に破壊力を増す。 ここでようやくアル・ヴェルが回避行動らしい回避行動を取った。 空中で脚に力を込めるようにしゃがみ込んで、刃鋼が目前に迫り自身に衝突すると言う瞬間に一気に翔けた。 その速度は神姫の眼を持ってしても図り知ることは出来ない。 それほどまでに、速い。 目標を見失った刃鋼は背後の建物を大きく抉る。 ナルはそれを確認し、左腕を大きく引いた。 それに呼応し、間接が縮まる。 一瞬で元の剣の形状へと戻った刃鋼を下ろし、前方に下りてきたアル・ヴェルを見据える。 『ナル、調子はどうだ?』 「…銃鋼ほどではないですが、反動が大きいです」 ナルは左腕を見ながら言った。 機械の腕に疲労に似た感覚が襲っているのだ。 恐らく、荷重に耐え切れないアクチュエータが悲鳴を上げたのだろう。 『なるほど、そこらへんは調整が必要だな』 恵太郎の言葉に、感情は込められていない。 「そろそろ良いかしら、マスター?」 アル・ヴェルが裕子に向かい通信を開いた。 その声には何かを待望する、そんな色が含まれていた。 「マスター……ボクもそろそろ我慢できないよぉ」 ナルの口調が変わった。 若干俯きながらも、その瞳は紅く輝いている。 『…良いわよ、アル・ヴェル。たまには羽を伸ばさないとね』 裕子の諦めたような、それでいて優しげな声が聞こえてきた。 「ありがとう…マスター」 アル・ヴェルはゆっくりと浮上しながら礼をした。 『ナル、お許しが出たぞ。好きなだけ大暴れしな!』 恵太郎は凄く嬉しそうだ。 「あはは、言われなくても……そのつもりだよぉ!」 そう叫ぶと同時に、ナルは銃鋼を構え、無数の光弾を穿き出した。 先程よりも雑で疎らな光弾の雨に、アル・ヴェルは羽鋼の出力を全開にして超高速で翔け回り、回避する。 その姿を目で捉えることが出来ないナルだが、それでも攻撃を止めない。 次第に光弾の及ぶ範囲が広くなって行く中、ナルのドップラーセンサーは確かにアル・ヴェルの姿を捉えていた。 「そこだぁ!」 支えていた刃鋼を左に大きく振り抜く。 刀身は伸びながらアル・ヴェルへと迫る。 ナルは銃鋼の欠点である集弾性の悪さを逆に利用した。 逆に光弾をばら撒く事によって、アル・ヴェルの逃げ道を塞いだのだ。 そして、動きが止まる瞬間を予測して刃鋼の攻撃を加える。 「なるほど、いい作戦ですね」 しかし、それはアル・ヴェルにはまだまだ通用しない作戦のようだ。 迫ってきた刃鋼を、アル・ヴェルは蹴り飛ばして凌いだ。 勿論、ただの武装では刃鋼を蹴り返す事など出来ない。 その秘密は、羽鋼にある。 羽鋼は電磁推進装置を利用した機動装備である。 従来のブースタータイプと違い、一種のバリアーによる反発力を用いるこの装備は爆発的な速度と運動性能を得る事が出来る。 そして、アル・ヴェルはこの反発力を刃鋼にぶつけたのだ。 「まだまだ脇が甘いですね」 一気に、一瞬でナルへと接近したアル・ヴェル。 ナルの息がかかるほどの近距離で一言言うと、ナルに強烈なローキックを浴びせた。 先程同様バリアーの反発力を乗せたそれはナルの巨体を軽々と吹き飛ばした。 それでもアル・ヴェルは攻撃を止めない。 吹き飛ぶナルに一瞬で追いつくと、ナルの顎を蹴り上げた。 再び軽々と上方へと吹き飛ぶナル。 ナルが最高到達点に先回りしていたアル・ヴェルは身体を横向けに回転。 そして、渾身の力を込めて蹴り落とす。 それは必殺の威力を孕む攻撃であり、喰らえば唯では済まない。 否。 唯ではすまないのは両方だった。 アル・ヴェルの脚がナルに触れる一コンマ前。 その瞬間、ナルの銃鋼はアル・ヴェルへと照準を定めていた。 爆音が響き、爆炎が渦巻く。 それと同時に両者は弾かれた。 ナルは床に、アル・ヴェルは壁に叩き付けられる。 銃鋼の光弾と羽鋼のバリアーの高エネルギーの衝突が爆発を引き起こしたのだ。 「あははぁ、やっぱ師匠は強いやぁ」 刃鋼を杖代わりにし、鉤鋼で体制を立て直すナル。 見た目は酷い損傷だが、その眼の闘志は消えていない。 「ナルも随分と肝が据わってきましたね」 壁にめり込んだ体を引き抜き、空中を踏み締めるアル・ヴェル。 しかし、その身体に損傷は見受けられず身を包む覇気も衰えない。 「さぁ、休憩はオシマイ。第二ラウンドだよぉ」 ナルは刃鋼を前方に向けたまま、左腕を深く引いた。 「休憩なんて挟むのも勿体無い」 羽鋼を大きく羽ばたかせ、前傾姿勢になった。 彼女達は武装神姫。 戦う事に、理由は要らない。 アル・ヴェルの羽鋼が瞬く。 度を超えたバリアーの過剰出力が強い光を伴わせる。 その速度は最早如何なる方法を取ろうとも、捉えきれるものではなかった。 だから、ナルは予測した。 左手を勢い良く繰り出す、一般に言う突きだ。 ただし、刃鋼の突きのリーチは10smオーバーだ。 アル・ヴェルは最高速度で飛翔した。 それはつまり機動性を殺すことだとナルは考えた。 そして目標は自分。 その道筋は一本道。 そこに、刃鋼を置いておけばどうなるか? 単純明快、正面衝突である。 しかし、アル・ヴェルの機動性はナルの思惑を遥かに凌駕していたのか。 アル・ヴェルに迫り来る刃鋼。 その衝突の寸前に、アル・ヴェルが進路を変えたのだ。 アル・ヴェルの羽鋼はいかに速く動いている状態でも、自在な機動を実現したのだ。 そして、最高速度のままナルに激突。 純粋な加速エネルギーだけの攻撃。 だが、それだけで神姫を粉砕するには充分すぎる破壊力を孕んでいる。 決まった。 アル・ヴェルは思った。 確実にナルの胸部を貫いていると。 自身の勝利が決定したと。 が、心のどこかでそれを否定したかった。 「あははぁ、やっと捕まえたぁ」 そして、それは否定された。 アル・ヴェルの脚は確かに貫いていた。 胸部をガードした銃鋼を貫いていた。 その上、鉤鋼でアル・ヴェルの脚をがっちりと掴んでいた。 「師匠…ボクの……腕は…三つあ…る…んだ……」 だが、アル・ヴェルの爪先がほんの少し、ナルの胸部を抉っていた。 すっかり暗くなった帰り道。 アリカと茜は帰路に付いていた。 「それにしても凄かったなぁ…」 アリカはナルとアル・ヴェルとのバトルを反芻している。 「私もアル・ヴェルさんのように強くなれるでしょうか…」 トロンベもバトルを反芻しているようで、小さく呟いた。 悲観的な言葉に対し、その声音は強い意志を感じさせた。 「ふふ」 その光景を見ていた茜が思わず笑い声を漏らした。 「何よっ、文句あるの!」 何となく気恥ずかしいのでそれに食って掛かるアリカ。 「ただ、アリカって変わったよねぇ、って」 アリカの目を真直ぐ見据えて微笑む茜。 その様子にいきなりしおらしくなるアリカ。 「変わったといえばアンタの方よ……今まで大学の研究室に行ってたなんて一言も言ってくれなかったじゃない」 俯きながら少し拗ねる様に言う。 「…アタシが先輩達の研究室に通うようになったのは丁度一年前からよ。その時、アリカが変わったと思っていたの。私の好きなアリカはもう居なくなったと思ったわ。私は寂しかった。その寂しさを埋めてくれるのは先輩達だったわ。だからアリカに言わなかったの。もし、アリカがずっとあのままだったら私はアリカを見限っていたわ」 急に真面目な口調で喋る茜。 「じゃあ、何で今更」 歩くのを止めてアリカに向き直る茜。 「私の大好きなアリカが帰ってきたからよ」 そう言うと、茜はアリカに軽く触れるだけのキスをした。 「…随分と久しぶりにしたわね」 顔を真っ赤に染め、そっぽを向きながらアリカは言った。 「ふふ、じゃあ久しぶりにアリカの家に泊まろうかしら?」 悪戯っぽく笑いながら歩き出す茜。 「マスター、トロンベに噛まれますよ」 それに空中散歩していたロンが喋った。 「わ、私はご主人様さえ良ければ…その……別に」 ロンの言葉に顔を真っ赤にしてトロンベは反論した。 「良いわよ…皆で泊まれば良いじゃない」 アリカは蚊の鳴く様な声で言った。 しかし、それは茜に耳にきっちり入っていた。 「じゃあ今日は大好きなアリカのお家でお泊りパーティね?」 軽くスキップをしそうな茜に、アリカは咆えた。 「気安く好きだの言わないでよっ!」 その顔はトマトの様に赤かった。 先頭ページへ 次へ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/935.html
皆様、始めましテ。自分ハ第6弾建機型MMSグラップラップの試作機、ビルトと申しマス。只今自分ハ神姫センターの一角ニ有ル、とあル店舗ニ居リマス。 「さーさー、キモオタ共も婦女子諸君もよってらっしゃいですにゃ! うちは安さと品揃えじゃ他のツイヅイを許さないですのにゃ! ホラっ! 其処のこぎたにゃいアンタ、自分の神姫に甲斐性見せたって損は無いのですにゃよ?」 「小汚くって悪かったな、仕事帰りだよ。・・・あ、そういやシビルが何故かツナギなんて着たがってた覚えはあるけど、流石に・・・」 「あるですにゃ。ピンクのツナギだって完備完備!!」 自分ハ、武装神姫デ在りマス。つまりハ戦い合う為ニ開発されたタ機械でありマス。 「へえ、久しぶりに来て見たらこんなお店もあったのね。あ、これつくもに似合いそうな色のケープ。このストールとかロングスカートとか帽子も・・・」 「隊長ぉっ!! そんなものでお金使い切る前に、僕を早くメンテに連れて行って下さいよぉ!!」 「・・・何だか甘い匂いのする客だにゃ。店内への飲食物の持ち込みは止めて欲しいにゃ。試着の時ベタるから」 そしテ自分ハ建機型でありマス。建機と言えバ藤岡・・・でハ無ク、総じて無骨ナ外見ヲ有しマス。何故ならバその用途に見タ目は重要視されまセン。自分モそれニ習イ、見タ目ニ囚われズ何時か巡り合ウ自分ノ主の為ニ粉骨砕身すル所存デス。 「ったくネギの奴―、『俺は金出さないぞ。欲しかったら盗ってでも来い。俺はゴスロリ以外買う気は無い。そもそもゴスロリこそ、少女の魅力を最大に引き出すファッションでありetcetc・・・・』とか脳沸いた事言いやがってー! そんなに言うなら望みどおりにやってやるー! やっぱいいよなフライトジャケットはー」 「にゃに!? にゃーの目前で万引きするとはごっつええ度胸ですにゃ!! 行け下僕ぷちどもっ!! 泥棒カラスを北京ダックにするにゃ!!」 「後このスカジャンも・・・ あ? 何だこのぷち共はー。オレっちの邪魔を・・・」 「必殺にゃイツオブラウンドぉ~!!!」 射撃斬撃砲撃突撃爆撃襲撃狙撃打撃投撃鞭撃過激惨劇、盥。 「ぎゃー! まわってまわってまわってオチ~る~〈泣〉」 「・・・なのニどうしテ自分ハ服飾店ノ店員なドやって居ルのでしょウカ!?」 「新入り! つべこべ言ってにゃいで働くにゃ!! 手が多いからって使わなきゃムダムダにゃ!」 窓ヲ見れバ、人工光デ埋メ尽クされてイタ閉店時間。慣れヌ作業デ疲レ果てた自分ノ横デ、先輩はデコマ様よリ何かヲ受け取ル。在れハ、プリペイドカード? 「はいにゃーの助、バイト代だよ。新人教育の分、それとアレの分も含めて今日は多めにしておいたよ」 「さすがデコ魔ちゃん、あのヘタレと違って気前がいいですにゃ♪ これであのヘタレを素敵な刺激の旅へと誘えますにゃ♪ ぐふふふふ~♪」 「あはは、ほどほどにね。それじゃあ、お疲れ様。兄さんによろしく」 「お疲れにゃ! また猫の手が借りたくにゃったらいつでも呼ぶにゃ~♪」 言ウよリ早ク、先輩はカードを振リ回シながラ走り去って行っタ。もう見えナイ。しかシ神姫ニ・・・ 「さて、次は貴女の分を・・・」 「・・・神姫ニ、アルバイト代ヲ渡すノですカ?」 「え、変? だって正当な報酬じゃない?」 こノ人、こノ神姫用服飾店店長デ在リ、自分ヲ此処ヘ無断デ連れて来タ張本人で在ル彼女、通称デコマ様ハ、本当ニ不思議そうナ顔デ自分ヲ見つめ返ス。そんナ事、変ニ決まっテ居マス。 「労働基準法ニそんな項目ハ有りまセン。ソモソモ自分達ハ戦う為に造られタ武装神姫デス。其れガ人間の様ニ働くナド、可笑シイでショウ」 「えーでも、子供にお手伝い頼んだってお駄賃あげるのは普通じゃない? 別に正統さに法律関係ないよ。あ、でもお年玉とかたまに法で規制して欲しくなるな~。自分であげる様になってから切に思うよホント。それから役目が違うっていうのだってさ、副業で農家やるラーメン屋とか画材をアルバイトで買う画家とか・・あ、それは違う?じゃあ公務員・・はバイトしちゃいけないんだっけ。でも今じゃ公務員の給料下がりっぱなしだしバイトしないと食べてけないよねー。あ、そういえば昨日役所に行ったら丁度モトオさんがいてね、あ、モトオさんて私の恋人なんだけどコレがまた格好良くてね。でもそのとき手元を見たら貰っていたのが何とぜ・・・」 「兎モ角!! 自分ヲ開発部ニ返しテ下さイ!! ソモソモ何故ニ自分なのデスカ? 客引キでしタラ先輩ノ様ナ可愛らしいタイプを選定スレバ・・・イヤ其レ以前ニ・・・」 「でも建機型の貴女って腕いっぱいあるじゃない? だからいっぺんに服何個も持てて適材だと思ったの。それで貴女の開発会社に勤めてる友達の所に行ったの。そうしたら別会社だけど同じ第6弾試作2人は両方失踪した~って話してるじゃない? だから貴女もう一人くらい減っても大丈夫かなって思って。あ、でも皆会議やってたし、私も店の開店時間近かったから勝手に連れてきちゃったけど、ちゃんと断りの手紙は置いて来たよ。それにお給料は払うけど? そう言えば建機といえば土方子って娘がここのセンターによく来るの。今日はマスターだけ来てたけど。で、その土方子ちゃんも面白いんだよ。まああのカラーリングは重機と言うより猛獣注意・・・」 ソレニソレカラ彼是云々カンヌン・・・ト、デコマ様ハ矢継早ニ取り止めモ無ク話シ続ケル。この方ハ一度話し出したラ止まら無イらしイ。イヤそんナ事よりモ・・・ 「待って下サイ!! ソモソモ、どうしテ神姫ヲ雇用スル必要ガ在ルのデスカ!? 普通ハ人間ヲ雇用スルでしょウ!!」 「だってここ、神姫が自分の服買いに来る所だもの」 「・・・ハ? そんナ馬鹿ナ・・・アっ!!」 ソウ言えバ気ニなっテいまシタ。店内ノ通路ハ狭ク、小物陳列用什器ヲ改造したハンガー掛けハ店内ニ過密過ぎル程ニ配置さレ、奥まっタ場所ノ商品ハ完全ニ人間ノ目線からでハ死角ニなりマス。シカシ、ワザワザ神姫ガ手ニ取っテ見れル様、ソノ全てニ階段ガ用意されていマス。そしテ商品はパッケージングされずタグのミ、これハ明らかニ“玩具”でハ無ク“服飾”ノ陳列方法デス。更ニ、店内にハ神姫用試着コーナーすら有ル。 「・・・確かニ、神姫サイズに合わせタ服飾品点ト考えれバ、全テ合点ガ行きまス・・・」 「ついでにお値段も良心的でしょ? 神姫の貰えるお小遣いなんて大して高くないしね。布代は当然少ないし、“神姫用らしいある方法”でうちは製造コスト安いからこの値段で出せるの」 「しかシ、これハ・・・」 神姫ハ人間ニ従うモノ。神姫ハ人間ニ奉仕すル為ニ生まれタ機械。其レが義務。其レが目的。それなのニ・・・ 「神姫ガ自分ノ為ニ服を買うなんテ、全ク無意味デス!!」 「そお? でも奉仕するとか別にいいじゃないそんな事。私も好きでやってるんだよお店。色々な服作るのも見るのも好きだし、私の選んだ服で着飾った娘が喜ぶの見るの好きだし、色んな娘がワイワイ服選んでるの見てるだけだって楽しいし。大体オンナノコにとって服選びは一番楽しい事じゃない。その辺に体の大きい小さいは関係ないでしょ。だったら普段ココで気持ちよーくお買い物してたらバトルの時だって調子いいんじゃない? それにオーナーが自分の甲斐性見せるためのプレゼント用にって買いに来る場合もあるし、人間様にもそこそこ人気よ。あーそう言えば今度友達が作った神姫用の靴も販売するんだよココ。そしたらまた新しいお客さんも来るし、大体靴も合わせないと服って選びづらいし。あ、そうだ水着もあったら・・って、元々水着みたいなかっこうしてるか。じゃあ・・・」 「しかシっ!! 自分達ハ戦う為だけニ・・・造らレたモノなのデス」 「でも・・・だったらオンナノコの形に造らないでしょ。だからいいの♪ 小さかろうと大きかろうと、オンナノコが着飾りたいのは世の摂理よ!! それを邪魔なんて総理大臣だって出来ないでしょ♪」 「ハ・・ハイ・・・」 つまリ、女性であるなラ、着飾るのハ必然ニ近ク、それハ神姫であろうト変わら無イ。其れガこの方ノ考えらしイ。しかシ・・・ 「自分ハ、建機デス。見てくれなド、気にモ、されナイ・・・」 「じゃあ塗ろっか?」 「・・・ハイ?」 「実はずっと気になってたんだよね、そのアームの色。ちょっとジジくさいよねー。どうせならライムグリーンでどわ~って塗っちゃわない? バイオレットに白ストライプとかもちょっといいかも。あーラメもいいかもラメ。あとアクセ色々つけるとか? このアームに神姫用ブレス入るかなぁ? アンクレットの方が・・・あーそれは大きすぎかな。とりあえずリボンつけましょリボン。在庫はえっと・・・」 「イヤイヤイヤイヤ! 普通建機ニ其ノ様なビビットな配色ハ行わナイでショウ!!」 「そう? 似合うと思うけれど?」 「そうカモ知れマせんガ、しかシ・・・」 物にハそれなリノ根拠ガ有ルからこソ、配色ガ決めラレ、其れニ色を塗リ替えたとテ、其ノ本質マデ変えらレル訳でハ無いのデス。 「もー、カタいなあビルトは。いいじゃない見た目くらい好きでも」 そうハ言えド、例エ色如キを変えようトモ、自分ガ“機械”で在リ“建機”で在ル事にハ変わり無イのデス。其レでハ、只、虚しクなるだケ・・・ 「そもそも貴女って、建機“型”じゃない」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ア。」 「そう、つまり自分の好きな色でいいんじゃない?」 「・・・そンナ気ガして来まシタ」 「じゃあともかくリボンつけましょ。この深緑のとかどう?」 結、結、結、結、緑。 「・・・イイっ!!」 「イヤイヤ黄色に緑は悪趣味ですにゃ」 「ギャァっ!? 先輩!?」 「忘れ物取りに来たらナニ洗脳されてるにゃ新人。デコ魔ちゃんは別にあんたの事考えてるワケじゃにゃくて、単にヒトサマのモノだろーが神姫だろーがヒト自体だろーが気に入らにゃかったら徹底的に自分色に塗り替えちゃうだけな変人ですにゃ。ホラそこのヘンな色の壁とか道端にあった重機とか」 「えーでもこの前のロードローラーをレモンイエローに塗ったのは好評だったよ? ピンクも結構いいのよねピンク。ダンプ塗った時、赤系アクセントに入れたらカッコ良かったんだよねー、血が付いてるぽいって言われたけど。あーでも何でパールホワイトのバックホーは不評だったんだろう?・・・あ、汚れ目立つからだ。だったらシルバーを地にして、赤系でスリットを塗ったり~。でもこの前間違えて排気口ふさいじゃった事あったんだよね。あの時は結局機械が火を噴いて怒られた怒られた。だから・・・」 「塗ったンでスカ!? 重機を!?」 「え?うん。後放置自転車とかここのオーナーの車とか電車とかそれから・・・」 「イヤイヤイヤイヤ!! 器物損壊罪デスよ!!」 「それから・・・あれもこれもそれも・・・それで・・・」 「・・・聞いてテ居りマせんネ」 「新人、逃げるにゃら今のウチにゃ」 「うゥ・・・自分ハ一体何ヲ信じれバ良いのデショウ・・・」 「そんなもんにゃ、人生にゃんて」 ちゃんちゃん(?) 目次へ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/300.html
凪さん家の弁慶ちゃん 「まずいわね…」 ここは私立黒葉学園、高等部校舎の三階、階段踊り場。 「…何が…?」 壁にもたれかかっている男が聞き返す。 「まずいじゃないの」 踊り場の窓から外を見ながら答える女。 「だから何が…」 再び聞き返す男。その肩には小さな少女が佇んでいる。 「何がって決まっているでしょ?」 若干焦っているような声色で答える女。その肩にも小さな少女。 「…わかりやすく言え…」 呆れたように訊く男。 「まずいわ…即戦力が必要よ…」 腕を組みながら考え込む女。 「なんの…?」 明後日の方向を見つつ訊く男。 「はぁ~。あのねぇ?それはもちろん…」 女はやれやれといった表情で言い放つ… 「この私立黒葉学園神姫部のよ!!」 第一話【求む!君の力!】 静まり返る踊り場。 「…まぁ、まだ「部」じゃないけどな…」 「う、うるさいわね!」 「むしろ同好会なのかすら怪しい」 「うるさいってば…!」 「まぁまぁマスター」 と、今まで黙っていた小さな少女。女の肩に乗っていた一人が口を開いた。 「何よアーサーまで~」 「いえ、反論しているわけではないですよ?」 「まぁ、それはわかってるわよ…」 「…同好会の申請をしてから一ヶ月以内に五人集まらなければ解散…か…」 男が呟く。 「そうよ。で今四人揃っているわ!」 「でも必要人数は五人…期限は明日まで」 今まで黙っていた男の肩に乗っていた小さな少女がぼそりと言う。 「もう誰でも良いから数合わせに入れたら良い…」 「それじゃ駄目よ!欲しいのは即戦力よ!クラスはセカンド!もしくはそれに準ずるポイント獲得者よ!」 「高校でセカンドなんて中々いないだろうに…」 「そうよ!だからサードの上の上でも良いって言ってるじゃない!」 「ほとんど同じだろ…」 「うるさいわね~今集まったメンバーを見なさいよ! 四人中私とあんたとあいつがセカンド、あいつの妹がサードの上位! ここまでこだわって集めたんだから、いま諦めたら後悔後の祭りじゃない!!」 「だから人が集まらないんだろ?」 「ぐ…」 「…とりあえず…それはいいから神姫センターに行ってポイント稼ぎでもしよう…」 「と、とりあえずとは何よ!」 「それに…」 「…?何よ」 「今からなら学校帰りの奴らが参戦しているかもしれないだろ…」 「…あ、なるほど…よ~し!絶対スカウトしてやる!!」 「はぁ…」 男はため息をついた。どうしたものやら…と。 「いけ!弁慶!!」 「…うん」 広大なバトルフィールド。 荒野を駆ける神姫が一体。 対するは地上を滑るように飛行する神姫。 弁慶と呼ばれた神姫は大地を蹴り、一気に跳躍する。 その右手には巨大な塊。それは【セブン】と呼ばれていた。 【セブン】とはその名の如く、七つの装備が合わさった弁慶が使用するカスタム武装である。 この【セブン】はAM社のパイルバンカーをベースに様々な武装で構成されている。 その装備は一番から 1.パイルバンカー 2.キャノン砲 3.ガトリング砲 4.2連装ビームバスター 5.ミサイルランチャー 6.手榴弾ポッド 7.光の翼 で構成され、状況に合わせて武装を選択、もしくは組み合わせることによって数々の戦局に対応可能にした万能装備である。 しかしその装備重量は通常の武装神姫用装備と比べ、はるかに重く、普通に使用するだけでも多大な苦労を有する。 だが、そんな武装をぱっと見軽々と扱っていられるのは七番目の武装【光の翼】という補助推進システムのお陰である。 逆にこれが機能しなかった場合は単なるカウンターウエイトにしかならないであろう。 地上を駆ける弁慶も、この【光の翼】をたくみに使用して【セブン】を制御している。 これの使い方を理解していない普通の神姫にとっては【光の翼】を使用してもこの巨大な代物を制御するのでやっとで、満足に扱う事はできないだろう。 この【セブン】を満足に扱えるのはマスターの凪千空と共に設計した凪千空の武装神姫、犬型ハウリンがベースの弁慶のみ。 そういう意味では単純に使うだけ、持つだけならなら誰でも出来るこの【セブン】も事実上は弁慶専用の装備と言えるだろう。 そんな弁慶は今日、後一勝でセカンド昇格をかけた試合に赴いていた。 「飛んで!弁慶!」 「…うん」 相手の大型ビームをジャンプで回避、セブンに装備された光の翼を使用して空に浮いた状態から横へ移動。 さっきまでいた場所はビームによって焼かれていた。 「今日は絶対勝つんだから!」 「…うん…!」 「三番で牽制、五番で包囲、七番使用で接近して一番!」 「…わかった…!」 弁慶は相手に対し三番のガトリングを乱射。命中が目的ではないので標準は適当。 「…いけ…」 発射されるミサイル群。しかし相手の移動速度は凄まじい。 「速いなぁ…」 「ミサイル追いつかない…どうする…?」 「ん…よぅし、ミサイルに気をとられているうちに七番で最大加速しよう!そして一番!」 「…言うと思った」 「えへ」 「…ふふ」 やっぱり弁慶は凄いなぁ。言ってる途中から言おうとした行動を実行してる。 「…突撃…!」 広がる翼、その瞬間弁慶の姿が霞んで消える。 狙うは相手の神姫。マオチャオに大型のブースターを多数装備して機動力を向上させているみたい。 「…はぁぁぁ…!」 弁慶が一番、パイルバンカーを突き出す体制に移行する。 「いっけぇぇぇぇぇぇ!!」 相手の斜め後方から一気に突貫する弁慶。でも 「あまいの!」 「…!」 相手マオチャオが急激に方向転換。 ぐるりと一回りしたのち、背部ブースターがその回転によって質量攻撃となり、偶然なのか狙ってなのか…接近しすぎた弁慶に打ち付けられる。 「…くぅ…!」 ドガァァァァァン!! セブンで何とか防御するもはるか遠くへと吹っ飛ばされる弁慶。 そのまま盛り上がった岩の壁に激突する。 「大丈夫!?」 僕は思わず叫ぶ。 「…痛い…でも平気」 岩の瓦礫の中から立ち上がる弁慶。 「注意して!」 次が来るかも!! 「…もうしてるよ」 光の翼を再び展開させて飛び上がる弁慶。 「…どこ…?」 「いない…?」 上空から索敵する。もちろん的にならないように小刻みに軌道を変えて。 「ここだよ!」 「…!」 いきなり下から声。 「弁慶!」 「…わ…!」 下方からのクローアッパーが弁慶を襲う。 弁慶はそれを何とか回避、でも 「ぐぅ…!?」 あるはずのない背中からの衝撃。その衝撃で地面に落下、そのまま激突する。 「な、なに…?」 よろりと立ち上がる弁慶。 「弁慶!右!いや左…え、えぇぇぇぇ!?」 「千空?なに??…え…何だこれ…」 僕達は驚くしかなかった。だって… 「ねぇ、なんかマオチャオがいっぱいいるように見えるんだけど…」 「うん…そう見える…」 弁慶の周囲にはブースターを排除した相手マオチャオがいた。 いっぱい…。 「「??????」」 「いくの!」 と相手マオチャオがう動きを見せる。時には一人、時には二人、三人四人と増えたり減ったり。弁慶の周囲をめまぐるしく動いている。 「え…。うあ…!」 正面からの爪が弁慶にヒットする。次は右、後ろ、左と思わせてまた前…四方八方からの攻撃を受ける弁慶。この状況じゃセブンは盾にしかならない。 「ぐ、あ、わにゃ、くぅ…」 「え、~と…!?」 焦る僕。ええと、こんなの初めてなんだけど~!! 「落ち着け千空…まだ大丈夫…」 「…弁慶…。良ぉし!!七番最大!あれ使っちゃうよ!!」 「…わかった…!」 光の翼を限界起動させる。紅く輝く翼が弁慶を包む。 「にゃ!?」 一瞬ひるむマオチャオ。 「今だ!弁慶ぇ!!」 「…うん…!!」 一気に飛び上がる弁慶。その高度はステージの上昇限界まで達している。 そして今度は一気に急降下。内臓火器を一斉発射して周囲を爆撃。 ガトリングが鋼鉄の雨となり、ミサイルの渦が嵐を呼ぶ。その雲の合間から煌くビームランチャーの光と流星の如く降り注ぐキャノン砲の追撃。おまけに手榴弾ポッドの隕石がマオチャオがいた周囲に降り注ぐ。 これらは当たらなくても良い。当てるのは一つだけで良い! 「わ、わわわぁぁぁ~!!」 いきなりの災厄に驚くマオチャオ。 響く爆音。その時、何の影響かはわからないけれどたくさんいたマオチャオが消えて、一人になった。 「…ラッキー!見えたよ…!」 「…そこ!!」 「え、うそぉ!?」 「いっけぇぇぇぇぇぇ!!」 後は突撃あるのみ!持ち方を変えてパイルバンカーを準備! 僕と弁慶の二人の声が合わさってその名を叫ぶ。 「「七つの混沌(セブン・オブ・カオス)!!」」 ドッゴォォォォォォォン!! パイルバンカーの射突音がステージ内に響く。 「やった…??」 バチバチ… 「……く…」 弁慶の苦い声。 「浅い…の!」 とたんマオチャオの声が響き閃光が走る。それと共に辺りを覆っていた硝煙が吹き飛んだ。 「ねここぉぉ!フィンガー!!!」 「…ぐ、あぁぁ…」 弁慶の苦しそうな声がインカムに響く。 「弁慶!」 弁慶を包む凄まじいスパーク。その出所であるクローは弁慶の腹部に突き刺さり、その体を貫いていた。 「すぱぁく、えんどぉぉぉぉぉぉ!!!」 「くぅ…!!」 一気に閃光が強くなり弁慶が黄色い光に包まれる。 「弁慶!!」 光がやむ。その体から爪が引き抜かれ、ドサリと崩れる弁慶。 「弁慶!!弁慶!!」 「やったの!…え」 勝利を確信するマオチャオこと、対戦相手のねここちゃん。でもその表情が変わる。 「…ぐ…ぅ」 ぐらりと立ち上がる弁慶。セブンを支えにしてキッとねここちゃんを睨む。 さすがに驚いた。 「べ、弁慶…?」 「…はぁ…はぁ…」 ずりずりと体を引きずりながらもなおねここちゃんに接近する弁慶。 「だ、駄目だよ!動いちゃ!」 思わず気遣うねここ。 「…うるさい…まだ負けてない…」 「弁慶!もう良いよ!ねここちゃんの言う通りだよ!」 「…千空…勝つって言った…だから嫌だ…」 「はぁぁあぁぁ~!」 セブンを大きく振りかぶる弁慶。 あまりの威圧にねここちゃんの動きが固まる。 「サド…ン…インパクト…!!」 ドッカァァァァンン!! 響く炸裂音。その鉄槌は当初狙っていたであろう腹部から大きく外れ、ねここちゃんの左肩を掠っただけだった。 それが最後の力だったのかよろけて倒れこむ弁慶。 その瞬間 『試合終了。Winner,ねここ』 ジャッジAIの機械音声が合図を告げた。 「弁慶…」 「…」 マシン内でうなだれる弁慶。 「弁慶?」 「…ごめん…負けた…強かった…」 「うん、強かった。でも弁慶も良くやったってば」 「でもセカンド上がれない…」 「そうだね…セカンド昇格はねここちゃんだね…さすがって感じ」 「…ごめん…駄目な奴で」 「そんな事無いよ!」 「千空…」 「追いついて勝てば良いんだよ!ほら、前負けてから五連勝だよ?だから次は六連勝だって!」 「千空…うん…今度は負けない…あ…」 「ん?」 「駄目だ…」 「え?」 「セブンが…」 「…!」 あらら、完全にショートしてる…。セブンは戦闘システム直結型だから…内部ダメージが限界を超えたかぁ…それとも無茶な強化が祟って寿命がきたかな…。 「ごめん…」 「いいって、また二人で作ろう?」 「千空…」 「もっと強いの作っちゃおう!!」 「…うん…うん!!」 「じゃ、早速帰って製作開始だよ!」 「うん!!」 「どう?」 ねここ対弁慶。その試合映像を見ていた女が聞く。 「良いんじゃないか?」 男が答える。 「そうよね!!間違いないわ!!」 女は意気込んだ。 「さぁ、どうしよっか?」 「…うぅ~ん」 僕達はセブンについてあれやこれやと考えながら帰路につこうとしていた。 そんなセンターの入り口に人影。 「ちょいとそこの君君!!」 「?」 振り向くと女の人と男の人。あ、制服がうちと一緒だ…て事は黒葉学園の生徒? 「そう!君!!」 女の人が僕を指差す。 「その制服は黒葉学園の制服!つまりは生徒!そして神姫所持者でランクはサード上位!!」 「へ、あ、はい…」 僕と弁慶はきょとんとしていた。 「求む!君の力!!黒葉学園神姫部に来なさい!!」 「え、えぇぇぇぇぇぇ~????」 いきなり出てきてこの人は何なんだろう…神姫部?そんな部活あったかな…? そんな僕の疑問を尻目に、僕と弁慶の、神姫を取り巻く世界は確実に動き出した。
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1843.html
2.目覚めは猫の鳴き声で 「どれどれ……えーっと、これがCSCってやつかな? ずいぶん小さいな……」 家に着いた僕は、早速神姫のセットアップを始めた。 箱から出てきたのは全長15センチくらいの人形だ。 細かい造形までよく出来ていて、今にも動き出しそうだ……って、それは当たり前か。実際に動くんだし。 米粒よりも小さなCSC――正式名称をコアセットアップチップという――をピンセットでつまみ、素体と呼ばれるボディ部分の胸元にある、小さな三つの穴に埋め込んでいく。 このCSCを埋め込むことで神姫は起動するのだが、その組み合わせによって神姫の基礎人格や得意分野、嗜好などが方向付けられるという。 CSCの種類自体いくつもあって、それぞれに特徴があるらしいのだが、僕の手元には若山さんから譲ってもらったCSCがちょうど三つあるだけなので、選択の余地はない。 とはいえ同じCSCの組み合わせでも神姫の種類によってはその性格の現れ方が異なるらしいし、最終的に最も強く影響するのは起動後の生活なのだとか。 「どんな性格でもきっと可愛いと思うようになるから、あんまり気にしなくてもいいよ~」 というのが、若山さんが僕に語った結論だった。 その言葉に従い、あまり細かいことは考えずに作業を進めていく。 考えることといえば、この神姫は一体どんな性格で目覚めるのだろうか、ということ……。 「にゃー」 作業をしている僕の足元に、一匹の猫が不満げな様子でまとわりついてくる。 飼い猫のキャロルだ。 そういえば今日はまだご飯を用意してやっていなかったっけ。 「あーごめんごめん。もうちょっと待っててくれな、もうすぐ終わるから」 すまなさそうに答えると、とりあえず納得したのか、キャロルはまとわりつくのをやめてちょこんと座り込む。 「どうした? 新しい家族が気になるのか?」 首をかしげて神姫を見つめるキャロルに、僕は思わずそんな言葉をかけていた。 自分で言っておきながら、不思議な感覚にとらわれる。 この小さな人形が動き出し、僕と一緒に過ごしていく……ほんの数分後に現実になるであろうその光景を、僕は未だ想像すら出来ずにいた。 「これで最後……っと」 三つ目のCSCを埋め込んだその時、にわかに電話のベルが鳴り出した。 タイミングが悪いにもほどがある。 無視してしまおうかとも考えたが、仕事絡みだと後々面倒だ。 僕は渋々立ち上がり、キッチン横に備え付けられた受話器を取る。 「はい、狩野です」 『ああ、暁人? 最近全然連絡ないから心配してたけど、元気でやってる?』 電話口から聞こえてきたのは、間違いようもない母親の声だった。 僕が仕事を始めて一人暮らしをするようになってからというもの、こうして何かにつけて電話をかけてくる。 別に嫌ではないのだが、我が母親ながら少し過保護に過ぎるのではないだろうか。 一人息子を心配する気持ちはわからないでもないが、もう少し僕のことを信用してほしい、とは毎度思うことである。 「ああ、母さんか。うん、特に問題なくやってるよ。あーごめん、今ちょっと取り込み中なんだ、またかけるから」 『そんなこと言って、貴方自分から連絡してきたことほとんどないじゃないの』 やばい、地雷を踏んでしまったか……こうなるとうちの母親は話が長い。 説教というわけではなく、脱線を繰り返して話がとんでもない方向へ進んでいってしまうのだ。 それは声のトーンでわかる。 普段なら適当な相槌を返しながら聞き流すのだが、さすがに今はそうもいかない。 「あーほんとごめん、今はどうしても時間がないんだ。ちゃんと連絡するから、じゃっ!」 『あ、こら、あきひ……』 少々強引に電話を切り、受話器に向けて手を合わせる。 ごめん、ホントに今度ちゃんと連絡するからさ。 えーっと……そうだ、神姫は起動したらすぐにマスター登録というのをしなければならないんだっけ。 このマスター登録によって神姫は特定の人間をマスター……つまり自分の主人として認識し、ここにある種の契約が産まれる。 こう言うと伝承の中にある召喚の儀式のようだが、イメージとしてはあながち間違いでもないのかもしれない。 「……そんなこと考え込んでる場合じゃないか」 誰にでもなく呟き、急いで部屋に……と、その時、聞きなれない声のようなものが僕の耳に入ってきた。 ともすれば聞き逃してしまいそうなくらい小さなものだったが、何故かそれが耳について仕方ない。 「……ぅ」 何だろう、確かに声のように聞こえる。 テレビはつけていないし、割と防音がしっかりしている部屋なのでお隣さんということはないと思う。 外からの音というのも、同じ理由で可能性は低い。 聴覚を集中させて、音源を探る。 「……ぁぅー」 今度ははっきりと聞こえた。 間違いなく人の声だ。そしてその発信源は……。 「……誰か~、た~す~け~て~」 ……僕の、部屋? 「……しまったあ!」 キャロルが興味津々な様子で神姫を見つめていたのを思い出すと同時に、僕はあわてて駆け出し、部屋のドアを乱暴に開けた。 そして僕の視界に飛び込んできたのは……。 「にゃー」 「あうあうー、離してくださいってば~」 我が家の愛猫に捕食されそうになりながら情けない声をあげている、小さな女の子だった。 「うう、ぐすっ……ひっく」 さて、困った。 神姫を押さえ込んでいた(当人は多分じゃれあっていたつもりなのだと思うが)キャロルを急いでひっぺがし、とりあえず夕飯を与える。 今は好物のミシマ水産のツナ缶を一心不乱に食していらっしゃる。 こちらのことなど眼中にない様子。 そしてようやく神姫と向かいあったまではいいのだが、肝心の神姫が先ほどから泣いてばかりなのだ。 キャロルには子猫の頃から僕の指で甘噛みの練習をさせているので、痛みとか外傷はないと思うのだが……よほど怖かったのだろうか。 「あーその、なんだ……ごめん、謝るから、とりあえず泣き止んでくれないかな?」 そう言葉をかけるも効果はなし。 参った、僕はこういう状況はとても苦手なのだ。 女性経験が皆無といっていい僕にとって、女性に泣かれるということは、対処のしようがない天災のようなものである……経験があったとして、それが神姫に通用するかは疑問だけど。 とりあえず言葉で彼女をなだめることは早々に諦めるとする。 となれば、残るは実力行使だ。 彼女を怖がらせないように、そっと手を伸ばす。 俯いてえぐえぐやっている彼女が気付く様子はない。 ぴと。 僕の人差し指が彼女の髪に触れる。 そしてゆっくりと撫でるように、さすってみた。 人間同士の最も原始的なコミュニケーション、スキンシップ。 その基本中の基本である『頭を撫でる』という行為を実践したのだ。 僕が頭を撫でると同時に、彼女の動きがぴたりと止まる。 ぐすぐすと泣いていた声も止まったので、僕はひとまず安心して、そのまま頭を撫で続けた。 指先に、微かな温もりを感じる。 それが機械特有の熱であると頭では理解しながらも、その温かみは人が持つそれと同等のものに感じられて仕方がなかった。 しばらくされるがままになっていた彼女が、ゆっくりと顔を上げる。 まだ目元に涙が残っているようだが、その顔に怯えや恐怖はない……というか、なんだかぽーっとしているようだけど。 「ん、少しは落ち着いた?」 「ふぁー……」 僕の辞書には、肯定にも否定にもそんな返事はない。 それ以上どうすることも出来ず、僕はまた困ってしまった。 彼女の金髪はさらさらしてて気持ちいいし、しばらくこのままでもいいんだけど……。 いつの間にかぺたんと座り込み、すっかり脱力している彼女の姿に、僕ははたとあることに考えつく。 (もしかして、神姫って頭撫でられると動けなくなるとか……?) そんな馬鹿な。 人間とコミュニケーションをとれるのがウリだってのに、頭撫でたら動けないなんて本末転倒にもほどがある。 でも昔、しっぽを掴まれると力が抜けるアニメキャラとかもいたしなあ……って、それはまた違う気もするけど。 とにかく、もし本当にそうだとしたら困るので、僕は一度彼女から指を離した。 彼女は相変わらずぽーっとしていて、その様子に変化はない。 「……そうだよなあ、そんな矛盾あるわけな」 「ふあっ、わわーーーーーーーーっ!?」 突然彼女が大きな声をあげたので、僕はびっくりしてひっくり返ってしまった。 十五センチサイズから発せられた音量とは思えなかった。 「な、何、どうしたの!?」 「ごごごご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめあいたーっ!?」 いきなりすごい勢いでぺこぺこと頭を下げ、謝りだす。 そして勢いがつきすぎたのか、床にモロに頭を打ち付けていた……かなり痛そうだけど、大丈夫かな。 「うー、くらくらするよお」 涙を浮かべながら、両手でおでこを押さえている。 よっぽど痛かったんだなあ……じゃなくて、とりあえず落ち着かせないと。 「あー……君、とりあえず僕の目を見てくれるかな?」 「はは、はいいっ!」 僕がそう言うと、彼女は軍人も驚くくらいびしーっとまっすぐに立ち、僕の目を見つめた。 まだ冷静とは言えなさそうけど、話は出来そうだ。 「えっと、君は武装神姫。自分のことはわかるかな?」 まずは彼女の状態を確かめないといけない。 いきなり混乱していたみたいだし……僕のせいなんだけど。 「あ、はいっ。私は武装神姫、天使型MMSアーンヴァル。コアユニットコードAGL―ARNVAL。個体コードTT―45986、素体構成材質は……」 「ストップストップ、そこまででいいよ。ありがとう」 彼女の話を途中で遮る。 構成材質とか興味がない話ではないが、そんなのは後で調べればいいことだし、今の目的はそこじゃない。 「よろしいのですか? まだ途中ですが……」 「いいのいいの、いずれ詳しく教えてもらうから。それより先に、マスター登録ってやつをしないといけないんじゃないのかい?」 『マスター登録』という言葉に、彼女はようやく落ち着きを取り戻したらしい。 「そ、そうですね」なんて言いながら、ふーっと一つ深呼吸……なんか、全然ロボットっぽくないな。 若山さんが怒ってた気持ちが、改めてわかった気がする。 「では、マスター登録を開始します。音声解析、準備……完了。貴方が私のマスターですか?」 先程までとは違う、機械的な音声。 合成音というわけではないが、やはりこういうところは機械なのだと再認識する。 そして僕が返事をしようとした、まさにその時……。 「にゃーん」 いつの間にか食事を終えていたキャロルが僕の変わりに返事をした。 「お、おいっ」 もちろん僕は慌てる。 猫が神姫のマスターだなんてことになったら一大事だ。 む、いやしかしそれはそれで興味深……いやいやいや。 そんなことを考えている間にも、彼女は言葉を続ける。 「解析開始……完了。登録不能な音声信号と判定。登録に失敗しました。マスター登録を再試行します」 どうやら猫の声ではマスター登録は出来ないらしい。 考えてみれば当たり前なのだが。 それに、マスター登録には自分の名前を告げることが必須だったはず。 さすがに「にゃーん」ではそこでひっかかるだろう。 僕は胸を撫で下ろし、再度マスター登録に臨む。 「貴方が私のマスターですか?」 「そうだよ、僕の名前は……」 「にゃー」 って、おい! 「解析開始……完了。登録不能な音声信号と判定。登録に失敗しました。マスター登録を再試行します」 この手の登録は三回失敗すると一時的にシャットダウンされるって相場が決まってる。 今度こそ邪魔されるわけにはいかない。 僕はキャロルの両脇をむんずと抱え上げ、クローゼットの中に押し込んで扉を閉めた。 「にゃー!」 なんだか怒っているようだが仕方ない。 ごめんよキャロル、少しだけ我慢してておくれ。 「さて……」 これで安心だ。 僕も一度深呼吸をして、気持ちを落ち着ける。 「貴方が、私のマスターですか?」 三度目の試行。 ゆっくりと、確認するように聞こえたのは気のせいだろうか? 「そうだよ、僕が君のマスターだ。僕の名前は狩野暁人」 「解析開始……完了。音声信号を保存。マスター名、狩野暁人。マスター登録に成功しました」 登録完了、これで一安心だ。 彼女の声質が、それまでの機械的なものから、本来彼女が持っているものへと変わる。 「えと、これからよろしくお願いしますね、マスター」 鈴を転がすような、というのはこんな声のことを言うのだろう。 ちょっと舌足らずな喋り方がまた可愛らしい。 「うーん、マスターっていうのは堅苦しいな。僕のことは暁人でいいよ」 彼女はきょとんとしている。 名前で呼ぶこともマスターと呼ぶことも、彼女にとってあまり違いはないのだろうか。 「えと……じゃあ、暁人さん」 「うんうん、よく出来ました」 ご褒美……というわけでもないが、人差し指で彼女の頭をぽふぽふと撫でてやる。 そうするとまた、彼女は脱力してぽーっとなってしまった。 「ふぁー……」 「あ、ごめんごめんっ」 僕は慌てて指を引っ込める。 こんなこと説明書には書いてなかったんだけど……腑に落ちないが仕方ないか。 「神姫って頭撫でられると動けなくなっちゃうんだね、僕も気をつけないと」 「……え?」 彼女が「何言ってるんですか?」という目で僕を見る。 いや、そんな反応されても……。 「頭撫でられると動けなくなるんじゃないの? 事実、君はさっきからそうなってるし」 そう言いながら三度人差し指で頭を撫でると、やっぱり同じ反応。 でも、なんだか赤くなってもじもじしているように見える。 「えと、えーと、あのですね……」 何か言いたそうなのでとりあえず指を離し、話がしやすいように彼女と目線の高さを合わせた。 彼女はほうっと息を吐くと、 「先に結論から言いますと、頭を撫でられても神姫が動作停止することはないです」 と、はっきりした声で言う。 そりゃそうだよなあ、やっぱり。 頭も撫でられないで何がコミュニケーションか、などと思う。 しかし、そうすると先程からの彼女の脱力っぷりが気になるわけで。 「でも、君は頭を撫でられると様子がおかしくなるよね? もしかして、どこかにトラブルでもあるのかな」 いかに心を持つとはいえ……いや、逆に考えれば、それだけ複雑なプログラムや精巧なボディで出来ているのだ。 精密機械の常で、どこかにトラブルが潜んでいたとしてもおかしなことではない。 そんな僕の考えをよそに、彼女から返ってきた答えは、僕の予想の斜め上を行くものだった。 「いや、そのですね、何と言いますか……その、頭を撫でられると、あったかくて気持ちよくて、ぽーっとなってしまうようで……」 顔を真っ赤にして、指をぐにぐにしながら答える彼女。 えーっと、それはつまりプログラムのバグやハードウェアの故障とかじゃなくて、もっと原始的な感情に基づくもの……。 「あー……それはつまり、頭を撫でられるのが好きってこと?」 恥ずかしそうに僕を見上げながら、こくこくと頷く。 なるほど、頭を撫でると動けなくなるのは武装神姫全般の仕様とかじゃなくて、彼女特有の個性ってことか。 しかしまあ、そんな個性もありなんだろうか? いずれにせよ、彼女に悪影響を与えるものではないとわかったので安心だ。 遠慮なく(というのも妙な言い方だが)頭を撫でさせてもらうことにする。 「はふ~……」 そして脱力。 先程よりもいささか安心しているのか、自分から僕の指に頭をすりつけたりしている。 うーん、なんか小動物みたいで可愛いな……と、そこで僕は大事なことを思い出し、彼女を撫でる指を離した。 名残惜しそうに彼女は首を伸ばし、頭を僕に向けて差し出してくる。 くう、可愛いぞ……このまま戯れていたいけど、そうもいかない。 「君に名前をつけてあげないといけないね」 いつまでも『君』とか『彼女』のままじゃ可哀想だ。 うんうん、と僕は一人で頷き、考えを巡らせる。 さて、どんな名前がいいだろうか。 「天使型、天使……エンジェル、アンジュ、セラフ……ダメだな、安直すぎる」 せっかくだから彼女に似合う、最高の名前をつけてあげたい。 彼女は色白でかつ金色に輝く髪の持ち主だ。 和風な名前は最初から選択肢の外にある。 洋風の名前でも、安直なのはダメだ。 ちゃんと意味を持った、彼女だけの名前にしてあげないと……。 「あのー、暁人さん?」 がりがり。 「彼女のイメージから連想する言葉……天使からは少し離れてみよう。白、金、乙女……」 『暁人はそういうトコ無駄にこだわる癖があるよな』とは大地の弁だ。 大地に限らず、学生時代から周囲の友人の評価は概ね変わっていない。 別にいいのだ、自覚もあるし。 興味のないことには悲しいくらい無関心、その代わりこだわるところは徹底的にこだわる、それが狩野暁人という人間である。 「あのあの、暁人さんってば」 がりがりがり。 「なかなかいいのが思い浮かばないな……そもそも彼女のイメージっていうのがまだ漠然としすぎてるんだ」 まだ出会ってほんの三十分である。 僕が彼女について知っているのは、外見的特徴と「頭を撫でられるのが好きだ」ということくらいのものだ。 しかしまあ、当たり前のことだが名前というのはそんな状況でつけるものである。 キャロルの時はどうしたんだっけ。 「ええと、あの時は確か……」 「あーきーひーとーさーん!」 「うわっ」 「きゃあっ」 耳元で大声がしたため、僕は再び後ろにひっくり返ってしまう。 そして同時に悲鳴。 いつの間にか僕の肩に登っていた彼女が、僕がひっくり返ったために空中に投げ出された……なんてのは後でわかることで、空中から落下してくる小さな影の下に、夢中で仰向けのままの体を滑り込ませた。 がつんっ! 「あだっ!」 目の前に星が飛び、直後視界が暗転しかける。 なりふり構わずに滑り込んだため、勢いで頭を何かにぶつけたらしい。 かなり痛い、もしかしたら少し馬鹿になってしまっただろうか? 「いやそれよりもだ」 くだらない考えに一人ツッコミをいれ、彼女の安否を確認する。 その姿は……いた。 僕の胸の上にダイブするような形で乗っている。 目立った外傷はない。 「おーい、大丈夫?」 声をかけると、うにゅーなんて唸りながら起き上がり、ちょこんと僕の胸の上に座り込む。 「はふ、びっくりしましたよ~……って、暁人さん頭! 大丈夫ですか!?」 どうやら僕が頭をぶつけたことに気がついたらしい。 泣きそうな顔で僕の目の前に寄ってくる……近いよ、すごく。 そして「ごめんなさい」を連呼。 「あー、大丈夫だから、そんなに謝らなくていいって」 「でもでもっ、私のせいで暁人さんが、暁人さんが~はうっ」 気にしないでいいと言っているのに彼女は半泣きのままだ。 拉致があかないので頭を撫でてやると、予想通り大人しくなる。 なんというか、困った時はとりあえず撫でておくのがよさそうだ。 しばらく撫でていると、彼女はすっかりほわほわになってしまった。 頃合と見て声をかける。 「それより、いきなり大きな声出してどうしたの?」 すると、彼女ははっと我に返ってぽんと手を打つ。 そして恐る恐る、僕の頭の先……クローゼットを指差した。 「えとですね、なんかさっきからがりがりがりって音がしてるんですけど……」 がりがりがりがりがり。 そして、怒りの雄叫び。 「うにゃーっ!」 「あちゃあ……忘れてた」 「悪かったって、機嫌直してくれよ~」 僕が手を合わせて許しを請うているのは、我が家の猫姫キャロル。 先程の仕打ちで大層機嫌を損ねたらしく、目を合わせようともしない。 別にキャロルの機嫌が悪いからといって僕に実害があるわけでもないのだが、そこはやはり同じ屋根の下で暮らすもの同士。 良好な関係を維持しておくべきだと思うのである……猫好きの僕としては、単に無視されるのが寂しいからというのもあるが。 「明日はミシマ水産の最高級のツナ缶買ってきてやるから、な?」 ミシマ水産のツナ缶といえば、食用ツナ缶の中でも割と高級な部類に属するものである。 それまで普通に猫用のツナ缶を食べていたキャロルだったが、ある日僕が食べていたミシマ水産のツナ缶を分けてあげたところ、それ以来他のツナ缶には目もくれないようになってしまったのだ。 そしてその最高級品ともなると、普通に人間用の惣菜弁当、それもそれなりのものが買えるくらいの値段になる……正直、財布にはあまり優しくない。 そんな僕の切実な願いを聞いているのかいないのか、キャロルは悠々と僕の脇をすり抜けていく。 その瞳が見ているものは……少し離れたところで成り行きを見守っていた、神姫の彼女だ。 「はわっ」 キャロルが自分を見ているのに気付いたか、ぴしっと石のように固まる彼女。 どうやら最初に受けた衝撃は相当のものだったらしい……って、当たり前か。 起動直後に猫に組み敷かれた神姫なんて、そうそういないだろう。 「心配しなくても大丈夫だよ、傷つけたり、痛くしたりすることはないからさ」 そこら辺はきちんと躾けてある。 ついつい手を出してしまうのは猫の本能だから仕方ないが、力加減は出来るはずだ。 びくびくしている彼女の前にちょこんと座り、じっと見つめるキャロル。 大丈夫だと思うんだけど、あまり怖がらせるのも悪いよな……そう思って助けに入ろうとしたその時、ぺろり、とキャロルが彼女の頬をなめた。 「ひゃっ!?」 予想外の刺激に、びくーっと傍目にもわかるほど硬直する彼女。 それにも構わずキャロルのスキンシップは続く。 鼻や頭をすり寄せてみたり、くんくんと匂いをかいでみたり……やがて彼女も慣れてきたのか、おずおずとキャロルの鼻頭に手をのばし、そっとさする。 キャロルが気持ちよさげに目を細めるのを見て、彼女は幸せそうに笑った。 「あはっ……あなたも私と同じで、撫でられるのが好きなんですね」 満足そうに一鳴きすると、キャロルはお返しとばかりに彼女の頭を鼻で撫でるようにさすった。 「きゃっ、もう、くすぐったいですよ~」 そんな風に言いながらも、彼女に嫌がる様子はない。 むしろ、同じように気持ちよさげにしているくらいだ。 やれやれ、これなら心配はいらないかな。 彼女たちのじゃれ合いはしばらく続いた。 そんな中で、僕はキャロルの行動に母性のようなものを感じはじめていた。 この辺りは猫が少ないのか、まだそういう事態になってはいないが、キャロルももう母猫になってもおかしくない年齢だ。 もしかしたら、生まれたばかりの彼女の姿に母性本能を刺激されたのかもしれない……ん、待てよ? 生まれたて……誕生……。 「それだっ」 急に声をあげた僕に驚いたのか、一人と一匹が揃って僕を見る。 僕は彼女に近づき、目線を合わせていった。 「君の名前が決まったよ……ノエルだ」 ラテン語で『誕生』を意味する言葉を語源とするこの名前……反射的に思いついたものだが、口にすればするほど、この世界に生まれた彼女と、この先の幸せを祝福するにふさわしい名前だと感じられる。 「ノエル……いい響きですね、嬉しいです」 幸せそうに笑う彼女……ノエル。 よかった、気に入ってくれたみたいだ。 そして僕は、彼女の目の前にそっと指を差し出した。 「それじゃ、これからよろしくね、ノエル」 「はいっ、暁人さん!」 彼女が両手で僕の指を掴む。 人間と神姫の、不恰好だけど気持ちのこもった握手だ。 帰り道で感じた不安は既になく、今の僕は、この新しい関係が少しでも長く続くことを願うばかりだ。 すっかり機嫌をなおしたキャロルの鳴き声が、彼女の誕生と二人の出会いを祝福してくれているように聞こえた。 1.武装神姫、里親募集中 TOP 3.僕と彼女とコーヒーと
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1556.html
第13話 「姫君」 『……子供(じゃねぇか)(ですね)』 確かに芸能界ですら滅多に見られない程の美形だが……あの背丈はどう見たって小学生以上だとは思えない。 あれを形容するなら『美女』ではなく『美少女』だ。 仕方ないのですっかり興奮しきった様子の白黒ミリオタチンパンジーに問い質すことにする。 「……まさかとは思うが、アレがお前の言ってた『武装神姫の流れ星』か?」 「ン何をいっとるかキサマぁ! ああいう人物を称える格言があることを知らんのか!?」 「格言?」 「ふふん、知らずば言って聞かせよう……古人曰く! 『ぅゎ ょぅι゛ょ っょぃ』 とな!」 「要するにお前はアレか、わざわざそんなクソッタレな寝言を聞かせるために俺を引っ張り出したと。 そう言いたいのか?」 ……こんな茶番と分かっていれば、昨夜あんなに悩みはしなかったものを。 「撃ちましょうか?」 「許す」 どぎゅーんちゅどーんうぎゃーと先日と同じ展開の中、不意に楽しげな声が割り込んだ。 「ふふっ。 そなたのまわりはあいかわらずドタバタとやかましいようじゃの、おおさわ」 舌っ足らずで高い声の持ち主は、言うまでもなく件の少女。 身に纏った純白のドレスは、服飾品の素材に疎い俺にも分かる高級品だ。 まるでそれ自体が光の加減で発光しているかのようで、どう見てもこんな場所に似つかわしいとは思えない。 しかし少女はそんな自分自身の異質さを気にした様子もなく、、自信に満ちた表情でこちらをじっと見据えていた。 ……が、俺が何も言わずにいるのを訝しんだか、形の良い眉が動いた。 「む? 今日わたしのあいてをしてくれるというのは、そなたたちではないのか?」 「えぇ、そうです。 ……多分」 なおも無言な俺の代わりにルーシーが答えると、八の字を描いていた眉はすぐに元に戻った。 「なんじゃ、人ちがいをしたかと思ったではないか。 おどろかすでない」 安堵したような愛らしい笑顔を見ながら、俺は『なんでこの子供はこんな喋り方なんだろうか』と考えていた。 「ムっはーぁッ! エリザベス姫、お久しうぅぅ!」 「せんしゅうも会っておいて『ひさしい』もなかろ」 グレネードツッコミのダメージもなんのその、頭から煙を噴きながら飛び起きて召使のように跪く大佐和と、その頭を手に持った扇子でぺしっとはたく少女。 「不詳この大佐和軍治、姫をエスコートするべく待機しておりましたが、出迎えに参ずる事叶わず大変失礼を!」 「よい、もとよりそなたにエスコートなどできるとは思っておらぬ。 気にやむな……というかよけいな気をまわすな」 ……なんなんだ、この本人たちだけが楽しそうなお姫様ごっこは。 俺とルーシーが顔を見合わせていると、ようやく俺たちの存在を思い出したらしい大佐和が立ち上がって紹介を始めた。 「さアぁ姫っ! こちらが先日お約束した対戦相手でゴざいますッ!」 「うむ、ごくろうじゃったの。 あらためて、わたしはエリザベス・寺舞(てらまい)。 今年で9さいになる。 今日はよろしくたのむ」 にこやかに笑う少女が手を差し出すのに、俺とルーシーも応じる。 「あー…あぁ、うん。 俺は藤丘遼平」 「遼平さんの神姫、ルーシーと申します」 俺、ルーシーの順で握手。 「おおさわの知り合いじゃというからいったいどんな『へんじん』かと思っておったが……」 うわぁすっげぇ不本意。 「ちょっと待ってくれお嬢ちゃん。 ひとつ言わせてもらうがな」 「わかっておる、なかなかの『しんし』とみた。 …すくなくとも」 すいっ、っと扇子で口元を隠し、半歩こちらへ歩み寄る。 「……アレよりはじょうしきがある」 隠した口元には、くすくすといたずらっぽい笑いが刻まれている。 間近で見ると……なるほど、これならギャラリーが増えるのも分かるっつーか。 「遼平さん、何考えてるんですか?」 「いーえぇ何にも」 なんだか不満げなルーシーの頭を撫でてやってると、ふと少女……エリザベスの表情が真顔になった。 「そなた、そっちの足は『ぎそく』じゃの。 長いのか?」 俺の目をまっすぐ見据え、はっきりと言ってきやがった。 「去年な」 「そうか」 短いやりとりで、俺とエリザベスは互いに黙した。 この態度、潔いと取るべきか遠慮がないと取るべきか。 だが子供ゆえの無邪気さからくる、興味本位の不躾な質問でなかったのは分かる。 9歳だと言ったが……なかなかどうして。 前話「相手」へ 『不良品』トップページへ 次話「制限」へ